「本を読め」継承される野村克也さんの教え シダックス門下生がオイシックス首脳陣に 野間口貴彦さんが19歳で得た“学び”
長く野球界を見ていると、愉しい光景に遭遇することがある。
この日がそうだった。2月21日、イースタン・リーグ参入2年目を迎えたオイシックスは、静岡・中伊豆の志太スタジアムで行われている春季キャンプの終盤を迎えていた。
同球場は名将・野村克也さんが監督を務め、社会人野球を席巻したシダックス野球部(2006年休部)が鍛錬に明け暮れた地。時は流れて、シダックスがオイシックスの子会社となり、野村さんの薫陶を受けた武田勝さん(元日本ハム)がオイシックスの監督、野間口貴彦さん(元巨人)がチームディレクター兼ヘッドコーチを務めているのも、不思議な縁を感じる。
野間口ヘッドは、若い選手に呼びかけた。
「本を読めよ。漫画でもいいから。野球では自分の考えを伝えるために、言葉を用いることが必要なんだ。言葉を増やすためには、読書が一番だ。だから常に、本に接するようにしようよ」
その瞬間、私の脳内は野村さんが監督に就任した直後、2003年2月の中伊豆キャンプにタイムスリップした。野間口さんはあの時、19歳だった。
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22年前の中伊豆キャンプは、独特の緊張感の中に包まれていた。日本シリーズを3度制した名将がシダックスの赤いスタジアムジャンパーに身を包み、アマチュアの選手たちに指導を行うことになったのだ。
夜は宿舎の会議室で夜間ミーティングが開かれた。教材はオリジナルのテキスト「ノムラの考え」。戦術論や戦略論、データの活用法や心理分析などが網羅された指南書なのだが、冒頭は「人間的成長なくして技術的進歩なし」といった人生論について記されている点も、ユニークだった。
夕食後、睡魔が襲っても不思議ではない時間帯だが、シダックスの男たちは前のめりで聞き、ノートにメモした。武田さんは言った。
「野村さんはホワイトボードに書きながら『ノムラの考え』の冒頭の『人間とは』という講義をしてくれるんですけど、結局『人間とは』で2週間のキャンプが終わっちゃったんですよ。あれ、『投手編』はやらないのかな、と思ったら『そこから先は自分で目を通しておいてください』って(笑)」
そしてこう続けた。
「貪欲でしたね。みんな体はくたくたでしたけど、僕は『これは絶対にプラスになる。絶対に聞いておこう。聞き逃したら損する』と思っていました」
読書家だった野村さんは、ナインに読書の重要性を説いた。
「本を読んで何を感じるか、なんだ。すべては感性から始まるんだよ。成長へのヒントは、自分で探さなきゃいけないんだ」
シダックスの選手たちは素直だった。野球がうまくなりたかったからだ。当時の投手で現在、中央学院(千葉)の監督を務め、2024年センバツで4強入りに導いた相馬幸樹さんから、こんな話を聞いたことがある。
「話を聞いて、すぐにみんな、本を読むようになりました。それまで『パチンコ必勝ガイド』しか読んでいないのに(笑)。浸透は早かったですね」
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22年間の歳月は、野間口さんをナマイキ盛りの十代から、大人へと変えた。
「僕も野村さんの話を聞いて、本を読むようになりました。グラウンド上のいろんなことに対してパッと反応できる…自分の考えを自分の言葉で伝えられるようになるためにも、言葉を増やさなくてはいけないし、読書は有効だと思います。本を読むことで、いろんな想像力が生まれますから。野村さんは自分の気持ちを大きく変えてくれた人。出会いが、人生の大きな分岐点になりました。そんな由緒ある、思い出のある場所で、こうやってキャンプができるのは僕らにとっても、感慨深い部分です」
時代が急激なスピードで変わっても、人を想う野球人の情熱は、変わることがない。“ノムラの考え”は、その門下生によって、孫弟子たちにも伝えられていく。(加藤 弘士)