【野村克也さん命日】「選手の目線に合わせて指導することが大事だよ」教えを胸に子供たちへ 監督付マネジャーの挑戦

スポーツ報知
かつて野村克也さんのマネジャーを務めた梅沢直充さん。現在は常盤台F少年野球部の監督として奮闘中だ(カメラ・加藤弘士)

 スタメン表に選手の名前を記しながら、あの頃の記憶がよみがえった。

 「野村監督ってスタメン表に、まず4番から書くんですよ。1番からじゃないんです。まず4番のキンデランを書いて、次に5番のパチェコを書く。『中心なき組織は機能しない』って、よく言ってましたもんね」

 声の主は梅沢直充さん。野村克也さんが社会人野球のシダックス時代、監督付マネジャーを務め、公私にわたってサポートしてきた。

 そんな梅沢さんはこのほど、横浜市内にある学童野球チーム「常盤台F少年野球部」の監督に就任し、小学生たちに指導を行っている。野村さんの命日となる2月11日を目前に控えた10日、相鉄沿線少年野球大会で初めて公式戦で指揮を執ることになった。

 スーツ姿やジャージ姿で野村さんを献身的に支えてきた梅沢さんのユニホーム姿。新鮮である。

 「野村監督が遺した一言一言の意味が、今になって理解できてきました。マネジャーという立場で野村監督のボヤキをずっと聞いてきて、『そうですねー』ぐらいの相槌しか打てなかったのですが、今、野村監督と会話ができたら、同じ内容でも理解度が全然違ったでしょうし、もっと奥の深い話ができて盛り上がったかもしれないなぁ、って思います」

 野村さんは当時、笑いながら梅沢さんにこんな話をしてくれた。

 「監督の試合中の無力感と言ったら、ないよ。やるのは選手だろう。この場面では『こうしてほしい、ああしてほしい』と思っても、オレには何にもできない。『代打オレ』って言いたくなることが、たくさんあるよ」

 梅沢さんは「ベンチにいて、本当に良くわかります」とうなずき、こう続けた。

 「だから『選手が監督の野球観をしっかりと理解した上で、プレーしてもらわなければならないんだなぁ」『試合に臨むまでの過程で、練習やミーティングの中で、時間がかかっても根気よく繰り返し伝えていくことが大切なんだなぁ』『ベンチと選手との信頼関係って大事なんだなぁ』ということを身に染みて感じています」

 これもまた野村語録の一つ。「信は万物のもとを成す」という言葉が指導中、あの声で脳内に響き渡る。

 「選手に指導する上で野球観はブレてはいけないし、もし修正が必要なら、選手に『今までオレはこう思っていたけど、こっちのほうが理にかなっていると感じたから、こう変える』としっかりと説明するようにしています。そうしないと、理由が分からずに言っていることがコロコロ変わると選手は迷うし、私への信頼も揺らいでしまいます。特にこれからの時代は、上から押し付けるのではなく選手たちとコミュニケーションを図りながら、同じベクトルに向かわせるやり方が合っているような気がします。相互信頼、リスペクトし合って、心の通じるチームにしていきたいですね」

 初陣は0-6で敗戦。しかし、中身がぎっしりと詰まった6イニングだった。

 ヒットも出た。好守もあった。みんなで声を掛け合い、ピンチを脱した。三振して涙ぐむ選手もいた。劣勢でもあきらめず白球を追った。泣いて笑って、手に汗握って。勝っても負けても、野球は楽しい。

 梅沢さんは、野村さんが「子どもに野球を教えるのが一番難しいぞ」と話していたことをよく覚えている。

 「小学生、特に中~低学年に野球を教えるのって、本当に難しいですよ。0を1にする仕事ですからね。その1が彼らのこれからの野球人生の中で一番大事で、だから間違ったことは教えられない」

 「何をどうやって教えたらいいか分からなくなって悩むこともあり、先輩や後輩に電話で聞いたり、『ノムラの考え』を読み返したり、学童野球の指導書を図書館で借りてきたり。また私がミーティングなどで話をすると、どうしても言葉が難しくなってしまって、頭の中で翻訳してわかりやすく話そうとしたら言葉が出なくなったり、噛んだりしてます。その点、学童野球の世界のベテラン指導者は、見ていると教え方が本当に上手い。私もその域に達するまで、今は修行の身です」

 野村さんはシダックス時代、当時の好敵手だったNTT東日本の長井秀夫監督(現・国士舘大監督)にこんなアドバイスを送っていた。

 「選手の目線に合わせて指導することが大事だよ」

 この言葉を肝に銘じて、梅沢さんはユニホームに袖を通し、子供たちに向かう。

 「子どもと同じ目線で、腰を低くして、一緒になってわいわいボールを追いかける。これからも未来の野球界を背負う原石の子どもたちと、楽しく野球ができたらいいなって、そう思っています」

 プロという最高峰のステージだけではない。野村さんの薫陶を受けた男たちは様々なカテゴリーで、きょうもその教えを若き力に説いている。名将と過ごした日々の記憶を、鮮やかに再生しながら。(編集委員・加藤 弘士)

 ◆梅沢 直充(うめざわ・なおみつ)48歳。中1で野球を始め、攻玉社(東京)では外野手で3年時に主将。日大、シダックスでマネジャー。2003~05年はシダックスのGM兼監督付、07年は楽天の監督付で、野村克也氏のマネジャーを務めた。現在シダックス株式会社最高顧問室長、一般財団法人日本中学生野球連盟理事兼事務局長。

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