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牧之原市の竜巻被害から2年半…全壊したイチゴ農家の新たな挑戦~災い転じてシャインマスカット実る

スポーツ報知
今年、シャインマスカットの初出荷にこぎつけた小関弥八さん(右)と晴美さん(カメラ・甲斐 毅彦)

 牧之原市の住宅、倉庫など148棟が損壊する被害を巻き起こした2021年5月1日の竜巻から2年半。壊滅的な被害を受けた坂部地区のイチゴ農家が、一念発起してシャインマスカット栽培を始め、今夏、念願の初出荷にこぎつけた。県を代表するお茶の産地で、新たな果物づくりに挑んだのは、小関弥八さん(69)と晴美さん(68)夫妻。静岡では生産量が多くないシャインマスカットは、地元で、瞬く間に大好評となった。

 全国にも名高いお茶の産地、牧之原市で、小関さん夫妻がイチゴ菜園を始めたのは、25年ほど前のこと。「ここで食べ物を作ってみたい」という素朴な思いつきだった。20アール(605坪)のビニールハウスで「紅ほっぺ」の栽培を開始。年間約3万パックを出荷するほどにまでなった。夫妻の楽しみは、イチゴ狩りに招待した地元の小学生たちが、うれしそうにイチゴを頬張る姿を見ることだった。

 地域の人々に愛される菜園を突如襲ったのは、竜巻だった。「ドーン!」という一瞬のごう音。突風が過ぎ去った後、確認してみると、3500万円を投資して作ったビニールハウスはパイプが折れてペシャンコになっていた。全壊だった。イチゴは木も実も傷み、売り物にはならない。「もう農業はやめようか、とも思いました」と晴美さんは振り返る。

 しかし、作物を育て収穫する喜びをなくすのは、寂しいものだった。前に進むきっかけとなったのは、弥八さんが災害前に菜園の中に「趣味のつもりで」植えていたというシャインマスカットの2本の苗木だった。「災害を機に今度はこれを育ててみるか」。県や市からの災害復興支援が得られることも分かった。菜園のうち6アール(181坪)を使いシャインマスカットの苗木を8本植えてみた。

 新しいことを始めるとワクワクし、イチゴ菜園を再興する気力も湧いてきた。災い転じて福となす、だ。図らずも、竜巻による破壊が農業の「多角化」を生み出した。

 1年目の22年は、イチゴは実ったが、シャインマスカットには枝の先端が枯れ込んでしまう黒とう病が発生して全滅だった。諦めずに作付を増やし、土を改良。今夏、ついに大粒の実が連なるシャインマスカットができた。「本当にうれしかった」と晴美さんは振り返る。

 「甘くて爽やか」「新鮮で美味しい」。近所で評判が評判を呼び、市場価格の約半額で販売した1000房は10日で完売してしまった。農水省の統計(22年度)によると、静岡県のブドウの生産量は全国上位25位までの調査対象に入らぬほど少ない。個人農家としては大きなチャレンジだった。

 「新しいことをするのはなかなか勇気が出ないと思いますが、伸びやかな気持ちで取り組んで、人に喜んでもらえれば何より」と晴美さん。来年の目標は倍の2000房を出荷すること。冬を迎える今も、ハウスを温めて続けている。

(甲斐 毅彦)

 ◇牧之原市の竜巻被害 2021年5月1日午後7時頃発生。割れたガラスなどで3人が負傷し病院に搬送された。市内にはがれきが散乱。倒れた電柱や倒木が道をふさいだ。住宅は半壊8棟を含む102棟が損壊、倉庫などの非住宅は8棟の倒壊を含む46棟が損壊、約3000戸が停電した。竜巻の規模は6段階で上から2番目の「JEF2」と判定された。同市では22年9月18日にも竜巻が発生し、2人が負傷している。

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