南沢奈央 落語から得た人柄込みの芸…ファン歴15年以上で高座も経験「お芝居にもいい影響」

スポーツ報知
大好きな落語にまつわる著書を刊行した南沢奈央。「文章を書く時はまず手書きでメモ。構成やフレーズを考えてパソコンで清書し、最終的には自分で声に出して読みます」(カメラ・小林 泰斗)

 女優の南沢奈央(33)が初の著書「今日も寄席に行きたくなって」(新潮社、1870円)を刊行した。高校時代から落語をこよなく愛し、ファン歴は15年以上。落語会で高座を勤めた経験も。人間を肯定する落語の懐の広さに魅了され「人生を救われてきた」と感謝する。大の読書家としても知られ「書くこと」への愛も深い南沢は、「自分の言葉を使って自分を表現することが、お芝居にもいい影響を与えている」と創作の源を明かした。(宮路 美穂)

 落語好きになったのは高校時代。現代文の授業で感想文を書くために手に取った、佐藤多佳子さんの落語がテーマの小説「しゃべれども しゃべれども」がきっかけだった。「本で始まったので、本に戻ってこられたことがすごくうれしくて。同じように落語好きになってくれる人がいたらいいなと思って、一生懸命書きました」と語る。

 落語はもはや生活の一部だ。「だいたい寄席に月1回、ホールの落語会に月2~3回行って、それ以外にも毎日CDやYouTubeで1日1席のペースで聞きますね」。古典も新作も、江戸落語も上方落語も、怪談噺(ばなし)も滑稽噺も人情噺も、軽いネタも大ネタも好んで聞くが「落語っぽくて好きなのは粗忽(そこつ)者の噺」という。

 「ダメダメでも笑っていいし、周りみんなで温かく見守ってる感じとか、どんなに欠けてても生きていけるんだな、と元気をもらえて、ああいう噺には人生を救われてきましたね。こういう仕事をしていると、見られ方を気にして、うまくやらなきゃ、キレイにいなきゃみたいになってしまうこともある。そんな時に落語を聞くと、人間っぽくてもいいのかなと思わせてもらえるんですよね」

 自身も20歳で初高座に上がり、昨年2月には池袋演芸場の二人会でトリも勤めた。役者として表現の世界に身を置くが「お芝居をやっている時はどれだけ自分を消せるか、というか。作品のことを考えて没入していくみたいな感じで、自分とは違う人になれる面白さもある。お芝居も落語もお客さんを目の前にしてやるっていう点では一緒だと思うんですけど、落語の方がお客さんの反応ありきで、俯瞰(ふかん)した面を持ち続けながら中の人物を演じていく。人がにじむというか、人柄込みの芸なんだと思います」と、それぞれの魅力を感じている。

 落語との出会いは、自分自身をたくさんの場所に連れて行ってくれた。19歳の時に訪れた立川談春の独演会では「『船徳』で大爆笑したあと、『子別れ』を聞いて落語で初めて泣いた」と衝撃を受けた。談春とはその後交流がスタートし、自宅で稽古をつけてもらったこともある。人見知りな性格だが、落語を取っかかりに仕事仲間と打ち解けるきっかけを与えてもらった。高座で抱いた、背筋があわ立つような緊張も、客席から感じる誰かの息遣いも、落語と出会ったからこそ知ることができた感覚だ。

 落語から得た「人柄込みの芸」は、この先の南沢自身の表現にも還元されていくだろう。「文章やラジオで、自分の言葉を使って自分を表現していくことで、お芝居にもいい影響を与えてるような気がしていて。書くことは私の性にすごく合っていて、書くことによって自分のお芝居を振り返ることもできる。落語以外でもシンプルなエッセーも書いてみたいですし、いつかフィクションにもチャレンジしてみたい。いろんなチャンネルでいろんな刺激をもらいながら過ごしていきたいですね」

 人生を慈しみ、受け入れて楽しく生きることが、南沢の新たな表現につながっていく。

 ◆南沢 奈央(みなみさわ・なお)1990年6月15日、埼玉県生まれ。33歳。立大現代心理学部映像身体学科卒。2006年、スカウトでデビューし、08年のフジ系連続ドラマ&映画「赤い糸」で主演。17年からは6年連続で「NHK新人落語大賞」の司会を務めた。21年よりTOKYO FM「nippn !hon‐yomokka!」のパーソナリティー。来年3月には舞台「メディア/イアソン」が控える。趣味は登山。

◆今村夏子さんの小説にゾクゾク 

 大の読書家で、昨年まで読売新聞読書委員も務めた南沢は、書評やコラムの筆致にも定評がある。「電子よりも紙の本が好きで、家に入りきらず(蔵書は)トランクルームに入れちゃいました」と読書愛を明かす。

 情熱が突き動かされたのは、中学校の図書室だった。「憧れの先輩が薦めてくれた東野圭吾さんの作品の感想を言いたくて『秘密』を読んでハマりました。そこからはいろんなジャンルを自分で選んで読むようになりました」。世界が広がるのを感じた。

 近年心を揺さぶられているのは今村夏子さんの小説。「全部読んでいます。日常を描いているのに、ちょっとしたズレや気持ち悪さがすごいところまで行っちゃってるみたいな。今村さんは不気味に書こうとは思ってないと思うんですけど、読み手が落ち着かなくなる感覚が気持ち悪いのに気持ちいい」と不思議な読書体験にゾクゾクしている。

 「今村さんの世界では普通からズレちゃってる人でも、バッドエンドでなくてその人らしい生き方の正解を出されている。どういう角度から日常を見られているんだろうって」と南沢。不完全な人間に宿る魅力はどこか落語の登場人物にも重なる。物語で息づく「人間らしさ」が琴線に触れるのかもしれない。

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