認知科学者・小鷹研理さんが著書「からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界」で語る「言語化できない強烈な経験」

スポーツ報知
「からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界」の著者・小鷹研理さん

 「ブルーバックス からだの錯覚 脳と感覚が作り出す不思議な世界」(1100円、講談社)では、名古屋市立大学大学院芸術工学研究科准教授で、認知科学研究者である著者・小鷹研理さんが錯覚によってからだに起こる不思議な感覚を解説している。からだの錯覚と出会い、研究テーマにし、「俯瞰的に自分の人生をみると、圧倒的に変わった」と小鷹さんは話す。(瀬戸 花音)

 「錯覚」とは、客観的事実と異なった知覚をすることだ。本来同じ長さの線が書き方によって長く見えたり、短く見えたりするような例は目の錯覚と言われるが、本書で取り上げるのはそれではない。

 けがで体の一部を失ったとき、ないはずの体の部分に痛みを感じることがある。そんな例を聞いたことはないだろうか?心と体が離れる「幽体離脱」はどうだろう?「からだの錯覚」と言われているそれらの不思議な感覚について、本書では描かれている。

 小鷹さんが「からだの錯覚」と出会ったのは10年ほど前。授業の準備のため、様々な本を読んでいる時、「ラバーハンド錯覚」というものを知った。ゴムでつくられた手を自分の手だと錯覚してしまうその錯覚を実際に体験し、「たまげた」という。「初めて自分のからだじゃないものを自分のからだとして受け入れるみたいな強烈な体験をしたんです。同時に、なんでこんなにすごいことをみんなは知らないのかって思いました。こんなすごいのがこんなに知られていないのは信じられないと思った。それで、研究題材にしていこうとすぐ思いました」

 すぐさまその感覚のとりこになった。「言語化できない強烈な経験」だった。「自分の手ではないものを自分の手として錯覚してても、それがすごく自然だったら気持ち悪さもなにもない。完全な錯覚だったら面白くないはずなんです。だけど、このからだの錯覚は、明らかに自分の手じゃないと一方では分かってるんだけど、もう一方ではあらがいがたく自分の手としてのみ込まれそうになっている感じがする。錯覚だって分かってるのに、どうしょうもないところのが、やばさなんです」

 この錯覚に出会う前、ロボットなどを研究のテーマとしていたが、そんな人生を「つまらなかった」と振り返る。そしてその「つまらなさ」の原因は自分のからだに要因があったと分析している。「自分はこの社会にいるなかの退屈さをどうするかってずっと思ってたんです。たぶん退屈さの主因は自分で、自分のからだなんですよ。自分がやりそうなことは分かってるし、自分が右手をあげようと思えば右手はあがるし、すごく当たり前のことなんだけど、自分という住居のことを知り尽くして、あきあきしてた」

 「からだの錯覚」に出会ったことで、小鷹さんの人生は変わった。「からだの錯覚って自分の住居そのものを住み替えちゃうみたいな感覚だったんです。自分の外に新しい風景があって、そっち行ってもいいんだって。ドア開けてもらって今、ずっとはしゃいでる感じです(笑い)」

 今後、「からだの錯覚」はメタバース(仮想空間)やVRなどと結びつき、人と人との新たなつながりを生み出す可能性があるという。「VRを見ながら、錯覚ですごく遠くの人とつながってるような感覚を持てれば、人と人との距離感も変わってくるだろうし、遠くても物理的なコミュニケーションも可能になる。からだの錯覚によって、メタバース空間のなかでリアリティを持てると、コミュニケーションの作法が変わってくるという想像がつきます」

 本書では、耳がありえないほど伸びたような感覚におちいる「ブッダの耳錯覚」など、錯覚体験のやり方もつづられていて、体験型書籍とも言える。体験することが「からだの錯覚」の魅力を知ることができる一番の近道。小鷹さんは「わたしのからだは心になる?」展(~11月19日 東京・千代田区「SusHi Tech Square」1階)でも体験型の錯覚展示会をやっている。「展示している錯覚は、自分たちが発見したものだけど、それを体験できる能力は僕たち人間に普遍的に備わってるもの。だから、そういう共有財産はどんどん外に開いていかないとと思ってます。『みてみて!すごいの見つけたよ!』って、ずっと本当にそんな気持ちです」

 小鷹さんの夢も「人に伝えたい」というところにつながってくる。「自分たちがやってきた錯覚をバーって体験できるような場所をつくりたいし、つくったものが100年後、200年後にも全国に残って欲しい。論文で残すってやりかたもあるけど、それもやりつつ、全国の美術館や博物館や、いろんなところに小鷹研究室の錯覚がちりばめられてたらすごくいいなと思います」

 ◆小鷹 研理(こだか・けんり)1979年生まれ。03年、京都大学総合人間学部卒。同大大学院情報学研究科、情報科学芸術大学院大学メディア表現研究科、

早稲田大学WABOT―HOUSE研究所(10年、工学博士)を経て、12年4月から名古屋市立大学芸術工学研究科准教授。「からだの錯覚」を通じてミニマルセルフを探究する小鷹研究室を主宰。

社会