首都直下、南海トラフ、富士山噴火―大災害が起きる前に何ができるか考えて…宮地美陽子さん著「首都防衛」

スポーツ報知
宮地美陽子さん著「首都防衛」

 首都直下、南海トラフ、富士山噴火―。今後予想される大災害の前に、私たちはどう向き合うべきか。東京都の小池百合子知事の特別秘書を務める宮地美陽子さん(46)は専門家の話を聞き、資料を丁寧に分析し、著書「首都防衛」(講談社現代新書、1012円)にまとめた。すでに5刷が決まり、災害への関心の高さもうかがわせる。地震大国日本で今、必要なことは何か。著者に聞いた。(久保 阿礼)

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 有事は突然、人々を襲う。地震、津波、台風、洪水などの自然災害、核ミサイルの発射により、日本が軍事的な脅威にさらされるケースもある。小池都知事の側近として活躍する宮地さんは、首都直下や南海トラフなどの震災を中心に、専門家に話を聞き、最新の知見を一冊の本にまとめた。

 「この現代で、都市型災害が起きた時に過去の想定を上回ることが起きるのではないか、という問題意識がありました。今年9月1日、関東大震災から100年を迎えましたが、専門家の方々のお話を聞いていくうちに、当時とは人口も建物も世帯の構成も全然違う、という話になりました。人口が減り、関東大震災当時との比較では、高齢化率は5%から30%になりました。家族構成も大きく変わり、都内の単身世帯は50%を超えています。こうした問題をどのように伝えていくべきか。それが今回、この本を執筆したきっかけです」

 行政の中に、身を置く宮地さんの筆致は冷静でリアルだ。著書では、有事が起きた際の「防衛作戦」の一端を描いている。首都で震度6強以上が観測されれば、国は災害応急対策に向けて即座に動き出す。首相官邸が地震などで壊滅した場合は内閣府へと機能を移し、それが難しい場合は市ケ谷の防衛省へ。最終的には立川広域防災基地へと移動する。警察・消防12万8000人、自衛隊11万人など、陸・海・空からおびただしい数の人員が投入される。都も非常配備体制に入り、緊急事態に立ち向かう。映画「シン・ゴジラ」でも描かれた政府や行政側の有事への対応が、目の前に迫ってくる。

 昨年5月、都は10年ぶりに地震による被害想定(都HP公開中)を見直した。

 「都心南部直下地震など8つのケースを想定し、1か月後までに起こり得る事態を示した災害シナリオを初めて盛り込みました」

 中でも最大規模となる都心南部直下地震の場合、震度6以上は区部の6割を超え、建物の被害は19万4431棟、死者6148人を数える。地震に伴う火災も発生し、避難者は299万人、帰宅困難者は453万人、建物や道路などのインフラも損壊するなど、直接的な経済損失は21・6兆円にも上る。都では、緊急輸送道路に指定される沿道の建物の耐震化を進め、木造住宅密集地域「木密」の解消など対策を進めるが、それでも被害を完全に防ぐことは難しい。

 「都市づくりの専門家は『被害をゼロということは難しいが、いかに軽減していくかが大切だ』と強調していました。首都機能が停止すれば、日本全体に深刻な被害を及ぼします。その時、行政側の支援である『公助』だけで十分ではなく、『自助』『共助』も必要になってきます」

 首都直下地震と併せて懸念されるのは南海トラフ地震だ。駿河湾(静岡県)から遠州灘、熊野灘、紀伊半島の南側海域、九州・日向灘沖にかけて海底に広がる南海トラフで、陸側と海側のプレートのずれにより生じる巨大地震。政府の報告書では、今後30年以内に70~80%の確率で発生すると予測される。

 また、太平洋沿岸の広範囲では津波が発生する。高さは10メートル以上、高知県黒潮町、土佐清水市では最大34メートルとみられる。津波が起きることで人的な被害はさらに拡大し、政府報告書では「国難とも言える巨大災害」と警鐘を鳴らしている。

 首都直下地震、南海トラフ、そして今も活動を続ける富士山の噴火。この3つの災害が時間をおかずに発生することも考えられる。宮地さんは「これらの大災害は320年前に、立て続けに発生した」と指摘する。歴史をひもとけば、江戸時代の1703年冬、関東一帯を襲った元禄地震では死者は1万人を超えた。4年後の宝永地震では、駿河湾から四国沖の広い範囲で大きな揺れが発生し、死者は2万人以上に上ったとも言われる。当時の人口は約3000万人で、現代で発生すれば、より大きな被害が出る可能性がある。そして、宝永地震から49日後には富士山が噴火し、余震とともに火山灰が関東一帯に降り注いだ。

 「南海トラフは国民の半数が被災するという大規模なものです。都は阪神・淡路、東日本大震災では、どちらかといえば、ほかの自治体を支援する割合が多かったと思います。東京では、この100年、巨大地震が直撃した経験がありません。災害が起きる前に、私たちに何ができるかを考えておくことが重要になってきます」

 ロシア・ウクライナ情勢にみられるように、隣国からの攻撃に備えることも首都防衛には欠かせない。小池知事は8月、ヘルシンキ市内で最大規模となる避難シェルターを視察した。地下25メートル、災害発生から重要な「72時間」をしのげる簡易トイレやベッドなどを備え、二重扉でガードされる。日常的に使用できる広場も設けられている。

 「ヘルシンキ市のシェルターは硬い岩盤の下にあって、その施設では約6000人が収容できるそうです。防災担当者からは『シェルターはいつも使えるような設備にすることで、緊急時に避難した際も住民の心理的な不安を解消できる』と教えてもらいました」

 災害が起きる前に、できることは多くある。食料の備蓄、自宅や職場など居場所によって変わる避難場所の確認など、事前の準備だけで、被害を大きく減らすことができる。一人一人が客観的なデータに基づいて現実をみつめ、小池都知事の言う「備えよ、常に」という意識が求められる。

 「心理学の専門家によると、人は危機を感じると、大丈夫だという認知のバイアスが働くといいます。いざという時、逃げる方向も過去の経験に沿って走ってしまう。ですが、それが正解かどうかは分かりません。危機が起きた時に備え、自分なりのルートを考えておく必要があります。日頃から、災害が起きた時にどうするか、ということを考えてほしいと思います」

 ◆宮地 美陽子(みやち・みよこ)1976年10月18日、千葉県生まれ。46歳。早大商学部卒。大学入学後に柔道を始め、柔道部で二段取得。在学中に南カリフォルニア大学(USC)交換留学。卒業後は新聞社に入社し、2016年8月から、小池百合子都知事の特別秘書。待機児童対策や女性の活躍推進、働き方改革などを担当し、政策立案への助言などを行う。

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