司法試験に7度落ちた作者が足で集めた、聞いた、泣いた裁判長のグッとくるエピソード

スポーツ報知
説諭を求めて全国を飛び回る長嶺超輝さん

◆長嶺超輝さん著「裁判長の泣けちゃうお説教」

 ライターの長嶺超輝さん(48)が「裁判長の泣けちゃうお説教」(河出書房新社、979円)で裁判長のグッとくるエピソードを30話に厳選して紹介している。大学時代のゼミの教授の一言をきっかけに、司法試験を7度受験も全て不合格。だが、法律に詳しいことを強みに“司法”に関わり続けている。(太田 和樹)

 スーパーで万引きをした40代のシングルマザーに、握手しながら「もう、やったらあかんで。頑張りや」と諭す裁判官。リフォーム詐欺をした男性の息子を法廷に呼びだして抱き締めさせ、嗚咽(おえつ)を漏らしながら崩れ落ちた男性に「その感触を忘れなければ、きっと立ち直れますよ。更生できます」と諭す裁判官―。

 長嶺さんは判決文には書かれていない、裁判官の「説諭」を新聞のデータベースで「宝探し」のように調べたり、実際に傍聴もし「裁判官のちょっといい話」をまとめ上げた。

 「書いている時は感情移入しちゃって、全然テンションが上がらなかったですね。涙を流すこともありました。そのせいか、予定の締め切りから2、3か月遅れました」

 九大在学中、ゼミの教授の褒め言葉で弁護士を目指した。

 「九大の法学部の中で一番厳しいゼミに入ったんです。ある時ゼミの飲み会で教授から『長嶺君は思考回路が弁護士に向いている』と言われて。試しに2、3問、司法試験の過去問を解いたら『いけるじゃん!』と思って。そこで、司法試験に合格すると誤解してしまったんです」

 7度挑戦したがいずれも不合格だった。だが、その間の猛勉強を、他の職業で生かそうと考えた。

 「司法試験を22歳から7年間受けてきたので、20代を潰してしまった。無駄にするのももったいないと思って、法律に詳しいことを強みにしたライターになろうと」

 自身が目指していた弁護士にインタビューもした。「200人以上の弁護士にインタビューをしたんですけど、依頼人は好き勝手言ってるし、裁判所に提出する書類もいっぱいある。ストレスで死んじゃうなって。弁護士にならなくて良かったって思いました」

 多い時には1日10件以上の裁判を傍聴し、北は札幌、南はカンボジアの首都・プノンペンまで足を運んだ。「推し」の裁判官の一人で、現在、東京高裁に所属する室橋雅仁裁判官が長野地裁に所属していた時には、1週間長野地裁に通った日もあった。

 著書でも室橋さんの説諭は紹介され、ギャンブル依存症の被告人に対し、自身が父親に借金をしてまでパチンコに熱中していた話を法廷でカミングアウトし、更生を願う様子などもつづった。「普通の裁判官は自分のことは言わない。権威付けのために隠している。でも室橋さんは本気で被告人を立ち直らせようと、当事者に向き合っている姿勢がいいですね」と語った。

 もちろん全ての裁判官が「ちょっといい話」をしてくれるわけではない。そのため苦労も重ねた。

 「すごい効率が悪いんです。9割以上の裁判はつまらないですから。説諭を言いそうな裁判官が言わなかったりしますし、9割方『反省しなさい』とかで終わる。何も言わないこともある。淡々と終わらせるのが普通の裁判官です。多分1割もないと思いますけど、説諭を言ってくれると『よっしゃ』って。皆に知らせるネタができたって思います」

 ただ、裁判官の間でも顔と名前が知られるようになったからか「最近は説諭を言ってくれないんです。『変なことを言ったら取り上げられる』って思われたりとかしてるのか。話したとしても『立ち直れよ』とか普通のことしか言わなくなっているんです」という。

 また、長嶺さんが尊敬する室橋さんは、現在、東京高裁では裁判長の両脇に座る陪席裁判官のため、説諭できないという。「がんじがらめの状態、翼をもがれた状態ですよね。説諭を聞きたいので早く高裁の裁判長になってほしい」と昇進に期待した。

 ベストセラーをものするなど活躍中の長嶺さんだが、今後は裁判や法律に関連したYouTubeに挑戦したいと考えている。

 「裁判傍聴ガイドとか、法律が生まれたきっかけを紹介していきたい。例えば昔は身代金目的誘拐という罪名はありませんでした。昭和30年代に事件が起こったことで法律ができたのですが、そういったエピソードを紹介していきたいと思っています」

【長嶺さんが選ぶおすすめ一冊】

 ◆パオロ・マッツァリーノ著「反社会学講座」

 福岡の書店で出会った本ですね。平積みされてて。

 読んでみて、データに基づきながら、とにかくふざけてるなと思いました。例えば「ふれあい」というスナックが全国に何店舗あるのかを真面目に調べていたりとか、新聞のデータベースで「ふれあい」という言葉が初めて使われたのはいつかを調べたりとか。そういうことを大真面目にやっていて。

 作者も何者か分からない謎の社会学者。多分日本人なんでしょうけど、プロフィルもふざけている。普通だったら何をやった人なのかを書くんでしょうけど、全く書いてない。何者かわかんないよ、みたいな(笑い)。

 でも、ふざけているけどバカ真面目。そういう本が書きたいなと思いました。(8度目の)司法試験を受験するかどうか行き詰まっていた時期で、この本が出版された年(2004年)に試験を受けることをやめて上京しました。介護の世界に行こうかなと思ったけど、もったいないと周りに言われて。書くのが好きだったので、こういう本が書きたいな、書く側に回ろうかなと思わせてくれた本です。(談)

 ◆長嶺 超輝(ながみね・まさき)1975年8月3日、長崎・平戸市生まれ。48歳。3歳から18歳までを熊本で過ごす。九大法学部を卒業し、司法試験を受けるが7度連続で不合格。04年に上京。07年に「裁判官の爆笑お言葉集」でデビュー。主な著書に「裁判官の人情お言葉集」など。

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