敗戦のショックは隠せなかった。慶応の加藤右悟主将(2年)は肩を震わせて号泣した。9月24日、サーティーフォー保土ケ谷球場で行われた神奈川県大会準々決勝。今夏の日本一チームは桐光学園に0―4で敗れ、来春センバツへの出場が絶望的になった。キャプテンは責任を背負い込んだ。
今夏の甲子園で取材したが、加藤はユーモアにあふれた明朗快活な若者である。その男が声を出して泣き続けた。「力が足りなかった。センバツに出たかったんですけど…試合でも練習通りの力が出せるチームになりたい」。右翼手から正捕手に再コンバートされ、主将と3番打者の重責を担った。責任感の強さゆえに、夢破れた無念さも人一倍だった。
そんな加藤をかばうように森林貴彦監督(50)は「波乱でも何でもない。いつもの神奈川の、また勝ったり負けたりだなと。紙一重の中で神奈川の上位はやっている」と語った。この言葉に尽きる。全国屈指の激戦区でしのぎを削る、指揮官の本音に聞こえた。
慶応だけではない。今夏の甲子園準優勝の仙台育英、同4強の土浦日大、同8強の花巻東もこの秋、センバツ行きが断たれた。多くの高校が7月中に新チームへと移行して夏休みの間、実戦経験を積む中、甲子園で勝ち抜いたチームは秋の大会に向けての準備期間が短くなる。聖地の喧騒(けんそう)から地元に帰還した後、表敬訪問などの行事なども多く、地に足を着けて日々の鍛錬に取り組むのは難しい。
だが、ものは考えようだ。秋の県大会での敗退は「夏の甲子園への近道」でもある。ある強豪校の監督はこんな話をしてくれた。
「秋の地区大会を勝ち抜いて、明治神宮大会に出るでしょ。そしてセンバツにも出る。テレビ中継があるから、センター方向のカメラからの映像が勝ち進む度に蓄積されるんだ。それでライバルに丸裸にされて、夏の県大会でコロッと負けちゃう。あれはつらいね…」
長いオフ。慶応の全国制覇の原動力となった小宅雅己、鈴木佳門(ともに2年)の二枚看板はひと冬を越えて、大きくレベルアップすることが予想される。今秋の敗退の結果、その成長度合いは世間に大きく知られることはない。“隠せる”のは強みでもある。
高校球児にとって最高の舞台は夏に訪れる。この日の悔し涙は最後の夏、うれし涙に変わるのか。ドラマはまだ序章に過ぎない。(加藤 弘士)