◆大相撲 ▽秋場所千秋楽(24日・両国国技館)
東前頭15枚目・熱海富士は賜杯にあと一歩、届かなかった。本割で大関経験者の西前頭2枚目・朝乃山に寄り切られると、4敗で並んだ大関・貴景勝との優勝決定戦では変化され、はたき込まれた。初土俵から18場所目での初Vなら年6場所制となった1958年以降初土俵(幕下、三段目付け出しを除く)では最速記録だったが、及ばず。記録ずくめの賜杯は来場所以降へお預けとなった。九州場所は11月12日に福岡国際センターで初日を迎える。
目前に迫った史上最速Vとなる熱海富士の初賜杯が、夢と散った。本割で朝乃山に寄り切られ、迎えた貴景勝との決定戦。立ち合いで変化した大関のはたきを食ってバッタリと倒れた。花道ではグッと歯を食いしばり、あふれ出そうになった涙は何とかこらえた。支度部屋では何度もタオルで顔を覆って悔しさをにじませ、声を絞り出した。
「(決定戦は)入門してから横綱が取っているのを見てきたし、自分があの場に立てていることを、昔の自分に言いたいですね。勝ちたかったです。目の前にあったんですけどね。本割も決定戦も…悔しいです」
この日は母・武井奈緒さんと、妹・陽奈さんも館内から見守った。本割の取組前には花道モニターに映った家族2人の姿を確認。悲願の瞬間を見せたかったが、あと一歩及ばず、「勝ちたかったですね。ダメですね」と唇をかんだ。
母子家庭で育ち、小学生の頃には仕事の母に代わりに夕食を作るなど、家事を手伝った。3学年下の陽奈さんは「(兄の作った)しょうが焼きが好き」と絶賛。高校時代は家計を助けるため、皿洗いのアルバイトで通学交通費などを自ら稼いだ。現在、母校の飛龍高3年で相撲部主将を務める妹が進路に迷った際には「大学のお金は俺が出すから、好きなところに行きなよ」と助言。優しい兄の言葉が、相撲の世界大会を目指す妹の背中を押した。
史上まれに見る大混戦場所で、一番の存在感を見せた平幕は幕内2場所目で初の敢闘賞に輝いた。「評価していただけたことはうれしい」。そう言ったが悔しさは顔に出た。それでも最後は「稽古が足らないですね。やることがいっぱいある。相撲人生は長いので、強くなりたいです」と顔を上げた。真っすぐに相撲と向き合う21歳の物語は、始まったばかりだ。(竹内 夏紀)