◆大相撲 ▽秋場所10日目(19日・両国国技館)
5場所ぶりに再入幕の東前頭15枚目・熱海富士が、単独トップに立った。元大関で東前頭7枚目・高安との1敗対決を押し倒しで制した。新入幕の昨年九州場所は4勝11敗ではね返されたが、幕内2場所目の21歳が主役の座に躍り出た。大関・貴景勝は取り直しの末に7勝目を挙げ、カド番脱出に王手をかけた。同じくカド番の大関・霧島は4敗目で、新大関・豊昇龍は4勝目。高安が唯一の2敗で追い、3敗で貴景勝、平幕の北勝富士ら5人が追う。
幕内2場所目の熱海富士が、大関経験者の高安に勝って、ついにV争いの先頭に立った。1敗で並ぶ2人の直接対決。立ち合いは右が入らず、激しい突っ張り合い。それでも左にいなすと、相手の引きを見逃さずに、右手の強烈な一撃で押し倒した。会心の9勝目。支度部屋では「勝ててよかった。単独トップですよね? うれしいなあ」と本音が漏れた。
ファンの人気投票で選ばれる懸賞「森永賞」が、平幕対決にかかるのは異例。自身初の森永賞に、本人も「何かもらえるんですかね」と目を輝かせた。注目の一番を制した平幕に、八角理事長(元横綱・北勝海)は「稽古をやっていないと、こうはならない。相撲に懸けている気がする。いちずなのがいいね」とたたえた。
恩返しの完勝だった。この日は会場に母・武井奈緒さんが応援に駆け付けた。母子家庭で育った息子の雄姿を見届け、母は「本当に勝ててよかったです。(終盤戦も)日々の稽古通りに頑張ってほしいですね」と目を赤くした。支度を終えて出てきた息子は、出待ちのファン一人ひとりに対応して大忙し。何とか声をかけ、つかの間の親子の会話を楽しんだ。
11日目は自身初の役力士との一番、小結・翔猿戦が組まれた。幕内後半戦の土俵も初めてなだけに、「三役とできるのは、そうそうない。勝ちたいですね、頑張ります」と気合十分。怖いもの知らずの21歳は、勝負の終盤戦もがむしゃらに駆け抜ける。(竹内 夏紀)