将棋の藤井聡太七冠(21)=竜王、名人、王位、叡王、棋王、王将、棋聖=が永瀬拓矢王座(31)に挑戦している第71期王座戦五番勝負第2局が12日、神戸市の「ホテルオークラ神戸」で指され、藤井が後手番の214手で勝ち、シリーズ初勝利。1勝1敗で史上初の全八冠制覇へ前進した。藤井のタイトル戦では最長手数となるスタミナ勝負を制し、地元・愛知での第3局(27日、名古屋マリオットアソシアホテル)で八冠へ王手を目指す。
港町・神戸のメリケン波止場を断崖絶壁にはさせず、藤井は七冠にふさわしい踏ん張りを見せた。
永瀬が角換わり腰掛け銀にし、誘導される形で藤井は自玉を珍しく右側に。「右玉にしてみたが、陣形をまとめるのに苦労した」と永瀬の研究手に何とか対抗。形勢を互角に進め、終盤にお互い1分将棋になってから一時、永瀬に流れが傾いたが、自玉を上部に逃がすことに成功して難を逃れた。
214手は、今年3月の棋王戦第3局(VS渡辺明、負け)の174手を軽々と超すタイトル戦最長手数。自身の全対局を通しても3番目の長さ。13時間を超える長丁場だったが、藤井玉は1八、永瀬玉は3三と相入玉になったところで詰み、スタミナ戦に持ち込んだ“軍曹”の心を折った。「全体を通して苦しい局面が多かった。最後は寄せにいく手順が分からなくて(入玉の)点数に方針を切り替え、おそらく駒が足りているかな、と」と振り返った。
今期5敗中4敗、タイトル戦でも11敗を喫し、課題を残している後手番で迎えた第2局。今月9日の日本シリーズJT杯(VS菅井竜也八段)を同じ後手番で快勝し、勢いをつけて中2日の戦いに臨み、王座戦の番勝負では初白星。21年の叡王戦(3勝2敗=奪取)以来のカド番は、ひとまず回避した。
20年6月のタイトル戦初登場(棋聖戦)から77戦目。これまで16敗してきたが“番勝負で連敗なし”の伝説は継続した。開幕黒星は過去5例(21年=王位、22年=棋聖、王位、竜王、23年=王座)あったが、タイスコアに持ち込んだ。
第3局は地元・愛知で指される。勝てば八冠へ王手。負ければカド番には変わりないが、次は今期、シリーズ第1局でしか負けを許していない先手番だ。「改めて三番勝負という形になるので気持ちを切り替えて臨みたい」。10月6、7日には同学年にあたる伊藤匠七段(20)の初挑戦を受ける竜王戦七番勝負も開幕し、対伊藤の研究にも時間を割くことになる。後手が勝つ流れを自ら断ち切り、棋界完全制覇へ地盤を固めるつもりだ。(筒井 政也)