【U18総括】際立った前田悠伍、緒方漣ら地方大会敗退組の活躍 昨年3位の悔しさから学んだ馬淵史郎監督の執念

スポーツ報知
世界一を成し遂げた高校日本代表ナイン(カメラ・加藤 弘士)

 「人生は敗者復活戦」

 仙台育英・須江航監督が今夏の甲子園決勝で敗れた後、口にした名言である。

 台湾で行われたU18ワールドカップを開幕から決勝まで現地で取材した。初の世界一を達成し、歓喜に沸くナインを見つめながら、その言葉が脳裏をよぎった。

 理由は2つある。

(1)「地方大会敗退組」の躍動

 チーム20人中、今夏の甲子園を逃したのは5人。その全員が優勝に大きく貢献した。

 大阪桐蔭・前田悠伍は大阪大会決勝で履正社に敗れ、ラストサマーに聖地帰還は叶わなかった。「ここに向けてずっと練習してきた」とジャパン入りに目標を切り替え、再起し、最後の最後に復活した。米国、韓国、そして決勝の台湾と先発を任されたのは全て難敵。世界一を成し遂げた馬淵史郎監督は勝因について「前田に尽きる」と絶賛した。

 横浜・緒方漣は神奈川大会決勝の慶応戦、極めて微妙な判定をきっかけに逆転を許し、甲子園行きが断たれた。「神奈川の決勝ですごく悔しい思いをして。その悔しさから世界大会という、この大きなチャンスをいただけた。ここで晴らすしかないと自分の中で燃えている部分があります」と前向きに捉えた。

 ヒットを放つと三本指を突き出す「慶応ポーズ」を見せ、「審判さんが全て。野球の中では当たり前のこと。切り替えができていて、世界一のために自分は突き進んでいるだけ」と言った。

 強い男だなと思った。

 木製バットにも日に日に対応し、24打数13安打の打率5割4分2厘。本職は遊撃だが、二塁の守備も確実にこなした。後半は3番に定着。MVPも獲得し、「馬淵流スモール野球」を象徴する存在になった。

 「1番・一塁」としてひときわ大きな声でチームを引っ張った明徳義塾・寺地隆成、投打二刀流で結果を残し、決勝では4番を担った山形中央・武田陸玖、3試合6イニングで実に11三振を奪った霞ケ浦・木村優人の活躍も見逃せない。

 「甲子園組」に夏の激闘の疲労が隠せなかった大会序盤、心身をリフレッシュさせた上で、高いモチベーションで臨んだ「不出場組」が勢いをもたらしたのは特筆に値する。志半ばで高校野球生活を終えた選手たちにとっても今後、代表入りは目標になることだろう。昨年の大会では「不出場組」が2人だった。3人増の編成が奏功したと感じた。

(2)経験を力に…転んでもタダでは起きない馬淵野球

 馬淵監督は期間中、報道陣に対応する中で何度も、去年3位に終わった敗因をもとに今年の戦いに臨んでいることを強調した。

 「日本にはどこもエース格をぶつけてくる。連打で長打、長打はなかなかない」

 7イニング制では序盤での先制点がカギを握ると分析した上で、木製バットでの大量得点は難しいと判断。強打者タイプよりも俊足巧打の1、3番タイプが名を連ね、選球眼よく四球を選び、出塁後は盗塁にバント、エンドランで揺さぶった。堅守を重視し、守りからリズムをつくり攻撃につなげる野球を徹底。ナインも9試合で失策はわずか3と期待に応えた。

 複雑な大会運営ルールもあらかじめ把握。どんな場面でもどっしりと指揮を執る姿が印象的だった。

 馬淵監督を支えた岩井隆ヘッドコーチ(花咲徳栄監督)、小坂将商コーチ(智弁学園監督)、比嘉公也コーチ(沖縄尚学監督)の首脳陣もみな、昨年の3位を経験している。負けからいかに学び、どう今大会につなげるか。そんな「失敗学」が結実した世界一と言える。

 やはり、「人生は敗者復活戦」だ。

 * * *

 最後になるが、開催国・台湾の人々に感謝したい。スーパーラウンド最終戦でぶつかった台湾チームは強力で、応援は熱狂的。日本代表は完敗から切り替え、思いを新たに決勝での再戦に臨んだ。日本が優勝した瞬間、満員の大観衆からさざ波のような拍手が降り注いだ。台湾の人々が日本の世界一を祝福してくれていた。

 スポーツ本来のあるべき姿、人々の温かさを思い、涙が出てきた。

 心から「謝謝!」(編集委員・加藤弘士)

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