秋場所13勝以上での優勝か優勝次点が、横綱昇進の条件になっていた大関・大乃国が、10日目に大関・小錦に敗れ、2敗となり、もう負けられなくなった。11日目、大関・朝潮、12日目・東前頭2枚目・両国と連勝し、13日目は横綱・双羽黒との一番を迎えた。ここまで4敗と不調の双羽黒には、右四つから寄り切りで勝利。「突っ張りは予想した通り。でも、右からのおっつけがよかったからねえ」と自画自賛。
この日、全勝の横綱・北勝海と1敗の大関・小錦が激突。北勝海が勝ち、優勝争いの単独トップを守った。14日目はその北勝海との綱をかけての決戦になった。「大一番? いやあ、きょうの北勝海関と小錦がそうだったでしょう。作戦? エッヘヘ」とおとぼけモード。前場所は千秋楽に、北勝海に敗れ、綱の夢を砕かれているだけに、胸中は雪辱に燃えているはずだった。
いきなり、もろ差しを許した大乃国は防戦一方。一度は突き放したが、また正面土俵際に押し込まれた。大逆転を狙い、右からのすくい投げ。ばったりと、北勝海が右ひじから落ちた。大乃国も左足が出た。軍配は大乃国。しかし、際どい一番に物言い。結果は軍配通りで、綱への望みを千秋楽につないだ。
「最後はワシの方が残ったように思う。でも、もういっちょうかと思っていた」と淡々と振り返った。横綱へ王手となったが「だって一番一番大事に取るだけ。あと1勝せんとわからんし。結果を考えたらだめ。相撲があって結果があるんだから」と表情ひとつ変えなかった。
千秋楽は西前頭4枚目・逆鉾を危なげなく、はたき込みで破り、ついに綱を手にした。「これが本物の力だと思っていない。負け方が気にいらないし、反省点が十分あります」と13の白星を喜ぶより、2つの黒星を悔やんだ。
翌9月28日、横綱審議委員会は、満場一致で横綱に推挙することを決めた。その報に「まだピンとこないス。うれしいとい気持ちと不安もいっぱい。でも、これからは不安など考えてはいけないよね」と答えたが、横綱昇進伝達式では「初一念(しょいちねん)を忘れずに精進、努力し、健康に注意して横綱を一生懸命つとめます」と決意の口上を述べた。(久浦 真一)=おわり=
◇大乃国 康(おおのくに・やすし)本名・青木康。1962年10月9日、北海道・芽室町出身。60歳。78年3月場所、初土俵。83年3月場所、新入幕。85年7月場所後、大関昇進。87年9月場所後に横綱に。91年7月場所で引退。引退後は、芝田山部屋を創設。現在は日本相撲協会事業部長。優勝2回。殊勲賞5回、敢闘賞2回。通算成績は660勝319敗107休。189センチ、211キロ。得意は右四つ、寄り、上手投げ。