北海道出張中に久しぶりに馬産地、日高町の牧場を回った。競馬をモチーフにしたソーシャルゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」の影響もあってか、訪ねた養老牧場には多くのファンが詰めかけていた。
目当ての馬を見つけてはうれしそうに写真に収めたり、1時間近くもじっと馬を見つめる人もいる。競馬談義に花を咲かせ、盛り上がる人たち。その話にこちらもニヤリとしてみたり…。1人で見学している何人かのファンの方と話をする機会もあったが、自分が心を熱くした馬たちに合える時間は、競馬ファンにとっては至福の時。私も心を癒やし、次への活力になった素晴らしい訪問になったことは言うまでもない。
一方で、残念なことがあった。一部のファンが寄ってきた馬の頭を突然、なで始めたのだ。それには周囲から、「触るなよ」、「マナー違反するなら帰れ」と次々と声が上がったことで、その行為はすぐにやめていたが、不快な思いはしばらく消えなかった。
ただ、これはまれなケースではないと牧場関係者は言う。「多くのファンにはルールを守っていただいていますが、時間外にきて勝手に牧場の中に入ってきたり、車を止めて外から見たり。声を上げたり、走ったりという方もいます。ゴミをポイ捨てする人もいて、近隣の方にも迷惑にもなりますし、柵をつくったり、防犯カメラを設置したりと対策をしますが、限界もあります」と頻発するマナー、ルール違反に頭を悩ませている。
サラブレッドは繊細な生き物である。人のちょっとした動きや行為に反応し、びっくりして暴れたり、転倒したりしてケガをする可能性もある。そもそも、馬に近づくことはかなりの危険行為だ。マナー違反は人馬ともにマイナスでしかない。また、周囲には生産牧場などもあり、生産、育成の妨げにもなりかねない。見学は当たり前ではなく、牧場、馬を所有する馬主さんの好意で実現していることも忘れてはならない。
一部のファンの行為で、浸透しつつある引退馬のセカンドキャリアへの意識が、失われては本末転倒だ。「競走馬のふるさと案内所」の公式サイトには牧場見学9箇条などが記されている。今一度、馬への理解を深め、節度を持った牧場見学を行うことで、馬たちのセカンドキャリアへのさらなる理解につながっていけばと思う。(中央競馬担当・松末守司)