巨人・重信慎之介外野手(30)が走塁面で存在感を見せている。「代走の切り札」として起用される機会も増え、途中出場が多い中で8月末でチームトップタイの9盗塁をマークした。19年に106試合で14盗塁を記録したが、20年以降の盗塁数は5、6、7と昨年まで3年連続で1ケタだった。意識を変えるきっかけは今年のキャンプ前、4年ぶりにコーチとして復帰した鈴木尚広外野守備兼走塁コーチからの電話だった。
「0・2秒速くしてくれ」
短期間で塁間のタイムを突然0・2秒縮めるのは無謀な話だ。鈴木コーチは当然それを分かった上であえて「0・2秒」と言った狙いをこう明かした。
「走る速さもあるけど、それだけで変えるのは難しい。準備とかスタート、読む力とか全てを含めて速くしてほしいということで言いました」。通算228盗塁を記録し、代走のスペシャリストとしても活躍した鈴木コーチが現役時代に最も重視したのが準備。その大切さを重信に伝え、0・01秒でも速くなってほしいという期待を込めた。
効果は絶大だった。重信は「0・2秒速く」と言われたことについて「全て準備だなと。試合中の流れとか、この投手の場合はここは行くとかここはやめておこうかなとか、試合前からイメージができている。どの投手がきても『よしっ』っていう感じで臨めています」。塁上で自信を持って勝負に挑めている。
グラウンド入り前の準備面も意識を高く持ち、「体の使い方、骨格のこと、骨盤が後傾しないようにとかいろいろ考えています」。紙一重の差でアウトセーフが分かれる過酷な“戦場”だ。検証を重ねた結果、足から滑るよりわずかに速いことが分かり、野球人生をかけて19年から継続しているというヘッドスライディングで塁に滑り込む姿が、チームに勢いを与える。
「入念な準備、観察、コンディショニング、全てできてるからいい結果に結びついている。発言、行動にも自覚が出てきた」と鈴木コーチ。プロ8年目の重信が持ち味の足を磨いて欠かせない存在になっている。(巨人担当・片岡 優帆)