将棋の藤井聡太七冠(21)=竜王、名人、王位、叡王、棋王、王将、棋聖=が、史上初のタイトル全八冠制覇を目指し、永瀬拓矢王座(30)に挑戦する第71期王座戦五番勝負第1局が31日、神奈川県秦野市の「元湯 陣屋」で指され、後手の永瀬が150手で勝利した。タイトル戦では、昨年10月の竜王戦以来の黒星発進。第3局が行われる27日に地元・愛知で「藤井八冠」が誕生する可能性は消滅した。
最終盤、藤井が天を見上げた。そのまま、ガクリとうなだれる。その後も数手、力を振り絞って指し進めたが、永瀬の手は確信を持ってつながっていく。お茶を飲み、「ハーッ」と息を深く吐き、もう一度お茶を飲んだ後に「負けました」。多くの報道陣に囲まれ「(シリーズ制覇へ)早くも厳しい状況になってしまった」と細い声を絞り出した。
天も藤井を後押ししていたはずだった。振り駒の結果は、「と金」が3枚出て今年度勝率10割の先手に。恒例の“初手お茶”から一度頭を垂れ、意を決したように▲2六歩と飛車先の歩を突き、エース戦法の角換わりに進んでいった。
後手の永瀬は序盤から工夫を凝らし、早繰り銀の作戦を選んで攻撃的な構えに。先に駒をぶつけたのも永瀬からだった。藤井は「お互いに玉が薄い形の戦いになって、どうバランスを取るか非常に難しい将棋かなと思っていた」。難解な中終盤では、63手目に藤井が強気に角を切って相手陣に攻め込んだが「進んでみるとこちらの攻め駒が少なくて、良い指し方ではなかったかなと思った。そのあたりで何か違う手があったかなという気はしています」と振り返った。
藤井の攻めに対し、受けの名手である永瀬は的確に手をつなぎ、自玉を安全にした後は攻めに転じた。互いに手の内を知った研究パートナー同士の戦いは持ち時間全てを使い切り、互いに一分将棋に。101手目から50手続く大熱戦の末、軍配は永瀬に上がった。
「先手負けなし」が13連勝で途切れ、八冠奪取に向けて痛い黒星スタート。地元での戴冠(たいかん)も夢と消えた。それでも、これで崩れないのが藤井の強さだ。過去17回のタイトル戦で初戦負けは4回あるが、奪取防衛に失敗したことはなく、番勝負内での連敗もない。
次局は本人が課題として挙げる後手番だが、巻き返しを図る。「できる限り良い状態で対局に臨んで熱戦にできるように頑張りたいと思います」。第2局は12日に神戸市で行われる。年内八冠へ、もう落とさない。(瀬戸 花音)