一つのミスがさらなる成長を予感させた。8月27日の広島戦(マツダ)の8回。ヤクルト4年目・長岡秀樹内野手(21)はマウンドの木沢に向かって帽子を取って頭を下げた。1点リードの8回から遊撃の守備につくも先頭・デビッドソンのゴロを一塁へ悪送球。この失策が同点打につながり、チームは引き分けた。1点もやれない場面でのミスに表情は曇ったが、すぐに顔を上げて謝罪した。
信念を貫き通す。昨年、神宮開幕戦となった3月29日の巨人戦で、同点の6回1死満塁からファンブル。これが決勝点となった。流れを渡しさらに3失点。先輩から励まされたが、二遊間を組む山田は違った。ベンチ裏に呼び出され、「エラーしたら、(投手に)帽子を取ってごめんなさい、だろ。片手だけ上げて、なんやそれ」と叱責された。
「1つのエラーが、投手にとっては命取りになる」。意識が改まった瞬間だった。技術不足と同時に、ミスが流れを左右することも痛感した。「自分のエラーで負けることもあるし、ピッチャーの野球人生もかかっている。取れるアウトは必ず取る」。その信念は野球を辞めるまで持ち続ける。
苦い思い出を機に、精力的に特守に励んだ。安定したスローイングや、確実性の向上を目指してきた。昨季は139試合で13失策。守備率は9割8分で球団最年少でゴールデン・グラブ賞を獲得した。今季は28日現在で7失策と、一時は守備率9割9分に達した。高津監督も「彼のおかげで防げた失点はたくさんある」と成長を認めている。
守備直前のキャッチボールも、真っ白な右手が証明する大量のロージンも、すべて“完璧な守備”のための準備だ。右に村上、左に山田。チームの顔に挟まれ、「変な感じ」だったポジションも、努力で“定位置”に変えた。自分を分析し、目指すゴールは明確だ。目標は無失策。「僕は派手なプレーはできない。でも、投手を助けられるような、周りが安心して見ていられるプレーをできるようにしたい」
チームへの貢献の仕方はそれぞれ。数字が振るわない打撃に、もがき苦しみ、最近ではドラフト同期で同学年の武岡にスタメンを譲ることもある。それでも「守備だけでも100%(成功させる)って思いでやっている」と必死に前を向く。まだ21歳。苦境を乗り越え、スワローズを支える存在になるはずだ。(ヤクルト担当・森下 知玲)