宝塚歌劇月組公演「フリューゲル―君がくれた翼―」が兵庫・宝塚大劇場で上演中だ。2021年8月のトップスター就任後、原作なしの初のオリジナル作に挑む月城かなとは「ゼロから作り上げる作業は久しぶり。役者としてどれだけ想像力を働かせるかが大切」と丸2年の経験を生かしている。ショー「万華鏡百景色(ばんかきょうひゃくげしき)」と2本立て。(筒井政也)
◆コスチュームの魅力
「フリューゲル」はベルリンの壁が東西を分ける1988年のドイツを舞台設定に、東ドイツの広報官ヨナス(月城)と西ドイツの人気歌手ナディア(海乃美月)がお互い衝突しながらも、思いを一つにしていく。作・演出の齋藤吉正氏が「今までになかったコスチュームものが見てみたい」と狙ったように、軍服姿の堅物な男が、次第に和らいでいくさまが面白い。
題名は独語で「翼」の意味。壁の崩壊を追ったVTRなどを見てベースを学んだ上で、想像の翼を広げて取り組んだ。「そう遠くない時代。歴史的な重いテーマではありますが、生き方を前向きに捉えるような、心温まる作品です」。今作で研1生(第109期)8人が配属。「ゼロから作り上げていく作業はとても大事」と、次世代の月組のテイクオフにも思いをはせた。
公演が進むにつれて、自身も翼を授かる感覚もあるとか。「翼が大きく飛べる象徴だとしたら、舞台の幕が開けて『自由になったな』と思う瞬間があるんですね。考えていたものがつながったり、みんなのお芝居を全部拾って持ってこられたり」。それも稽古=助走があってこそだが、もしも本当に翼を背にしたら?の問いには「客席降りができるようになったので、2階席まで飛んでいきたい」と笑顔。猛暑の下、劇場に足を運ぶファンに、感謝の気持ちを伝えずにはいられない。
◆海乃美月とレッツ輪廻!
併演のショーでは、あらゆる時代を飛び回る。「東京」の変遷を歌とダンスで表現。宙組の「夢千鳥」(21年)、「カルト・ワイン」(22年)を手掛けた栗田優香氏の大劇場演出デビュー作で「江戸から始まり、海乃と2人で輪廻転生(りんねてんしょう)していきます。なかなか結ばれないさまも楽しんでいただけたら(笑い)」。
横浜出身だが、音楽学校に入るまでは東京に通学。「東京宝塚劇場のある有楽町も私が通い詰めた頃はミッドタウンもなかったし、(日比谷)シャンテもきれいになったし、どんどん変わっている。それが東京の面白さ。(東京公演で)劇場を出た時、東京がいつもと違って見えたらうれしいな」。街の形は変わっても、幸せに暮らしたいという人々の願いは不変。夢を届ける舞台人の思いとも通じる。
◆同期トップトリオ同じ思い
来年は劇団創立110周年。月組の演目(「Eternal Voice 消え残る想(おも)い」「Grande TAKARAZUKA 110!」=3~7月)も早くも発表された。
「110年ずっと続いてきて、私もタカラジェンヌの誰かの生まれ変わりかも?」とショーの内容にちなんで空想しながら「ファン時代、90周年(2004年)の大運動会を見たと記憶しています。100周年では記念式典にも出ましたが、まさか今、自分がこういう立場になるとは。またどんどん、120、130周年とつないでいかなければ」。退団を決めた花組・柚香光(ゆずか・れい)、体調不良と闘う星組・礼真琴(れい・まこと)の同期トップも、きっと思いは同じ。歴史を紡ぐ大きな翼になる。
◆日程 兵庫・宝塚大劇場で9月24日まで。東京宝塚劇場で10月14日~11月19日。
◆月城 かなと(つきしろ・かなと)12月31日生まれ。神奈川県横浜市出身。2009年「Amour それは…」で初舞台。第95期生。雪組に配属され、17年2月に月組に組替え。21年8月にトップスターに就任。来年1月17~31日には大阪・梅田芸術劇場メインホールでスペシャルコンサート「G.O.A.T」を行う。身長172センチ。愛称「れいこ」。