◆第66回ダイヤモンドレース(G1)4日目(28日・飯塚オート)
現在、荒尾聡に憧れを抱く若手はあまりに多い。ロッカーでヤングレーサーたちを取材すると、「荒尾さんのアドバイスで良くなりました」とか「荒尾さんの走りを見習いたい」といったフレーズを何度となく耳にする。
ダイヤモンドレース優勝戦で手合わせする長田稚也もアラオ信者のひとりで「自分は家で時間がある時は、何度も荒尾さんのレースを動画でチェックして、乗り方を見て自分のフォームに取り入れようとしています」と教えてくれた。
そのことを荒尾に伝えると、「み~んなだめだなあ(苦笑い)。自分なんかを手本にしちゃあだめだよ。自分はマサト(中村)を見習って欲しい。マサトこそ手本だよね。きれいに乗るし、危ないレースはしないし、彼が理想です。自分なんてマサトと比べたら、全然ですよ。いや、本当に」とアラオ先生本人はそう謙遜しても、実際に若手たちは、特に飯塚所属のヤング系にとってはやっぱり荒尾こそが最高の目標であり、最良の教科書的存在なのである。
今や、後輩をけん引する立場の荒尾だが、その彼にも憧れてやまなかった大ヒーローが存在した。かつて筑豊軍団の総大将的存在だった中村政信さん(1999年末の事故で殉職)である。荒尾がオートレースファンだったころから、中村さんは別格のヒーローだった話は有名である。
今年で66回目を数える飯塚伝統のG1ダイヤモンドレースについて、荒尾に聞くとこんな思いを伝えてくれた。「ダイヤモンドですか? もちろん思いは強いですよ。あの中村さんが言っていたんです。『ダイヤモンドレースは、SGよりも大切な大会だ』ってね。今はナイターで行われていますが、当時は真夏の本当に暑い昼間開催だったので、最重ハンデの選手はコースが滑って追ってくることが大変なんです。そんな地元G1を一番後ろから勝つというのは本当に大変だったんでしょうね…」
中村さんが思い抱いた熱く、重いこの大会への愛着は、いつしか荒尾たちが受け継ぎ、今度はまたその後輩たちへと伝えていく。それが伝統の地元G1たるゆえんである。
荒尾は06、20、21年にこの大会を制している。今年は4度目の戴冠の絶好のチャンスといえる。準決勝戦11Rは道中は最後方に置かれてしまう厳しい展開に遭遇してしまった。しかし、追って、さばいて、まるで往年の中村さんの爆走を模倣するかのような差しパフォーマンスを披露して、8番手から1着ゴールを決めた。「そうそう、8番手はやばいなあと思ったけれど、エンジンが悪くないんでしょうね。あそこから届くんだからね。うん、いい感じであるのは間違いないでしょう。あとはスタートかな。スタート、マジで遅いわ(苦笑い)。あと、ちょっとだね」
Vを決めるためには連覇のかかるNO1青山周平を打倒しなければいけない。「自分が飯塚のエース? いやいや、有吉さんですよ」と今も地区NO1をせめぎ合う有吉辰也も目の前に立ちはだかる。そして、グレード初制覇に挑む長田もいる。「マサヤは頑張っているよね。自分を手本にしていると言うけれど、自分は若い頃はさんざんムチャクチャなレースをしていたんです。でも、マサヤは危ないレースをしない。普通は失敗して、危ないレースをして覚えていくものだけれど、彼はそれをしないできれいなレースを覚えている。それはすごいことだよ。若い選手が出てくることはすごくいいことだし、自分もすごくうれしいです!」
2023年夏、66回目の大会を政信さんは天国からそっと見守り、頼もしい後輩たちにエールを送っているはずである。(淡路 哲雄)