◆第66回ダイヤモンドレース(G1)初日(25日・飯塚オート)
オートレース界で一番この競技を心から楽しみ、深い愛情を持って仕事に向き合っている選手は? と質問されたら、新井恵匠がファイナルアンサーです。彼はライバルたちの走りを、一人の熱烈なオートレースファンのような視線で見つめ続けている。
「荒尾(聡)さんの車の寝かせ方、まじで天才だよお~。感動だよ~」「あれだけ急に雨が降ってきたのに、瞬間的にエンジンを合わせちゃう。(高橋)貢さんの引き出しの数、完全にやべえよお~」「(鈴木)圭一郎の独走コース、もう勉強にしかならないよお~。すごい研究力だよお~」
とにかく、レースを見るたびに、ケイタさんはまるで少年のように感激して、感動して、はしゃぎ、酔いしれている。
ダイヤモンドレース初日は、4Rに登場した。もしも、この激闘を新井自身が観戦したら、一体どんな感想をうめいただろう。
「ケイタ、何なの? 今のコース取りは! 常人じゃないよお~。サーカスみたいだよお~」とでも絶叫したに違いない。
それほど、このレースの新井の快走はファンを、そしてライバルたちを、何なら勝利した本人をも感嘆させるパフォーマンスだった。雨でしっとりとコーティングされた湿走路に、序盤の新井はもがいた。後方で停滞して、なかなか車が進んでいかない。
「でもね、外なんですよお! 飯塚の雨は! 外に車を出したら、まじで進みましたね。あれっ? これ、3着ぐらいは行けるんじゃない? と思っていたら…」
終盤に突入し、一気に先行勢に追いつくと、最後は竹谷隆と岩田裕臣がもつれ合う間隙(かんげき)をスパッと切り裂いて、スーパー突破。そのまま先頭でゴール線を駆け抜けた。
「あそこは、もう、サイコ~でしたよ! やっぱりタイヤもいいんでしょうね。キュイ~ンと車が内に向いてくれて、一気に行けました! いやあ、こんなレースができちゃうなんて、オートレースをやっていて良かったよお~!」
一時は「SG初制覇に最も近い男」と言われた。しかし、手痛い落車に遭遇したり、エンジンが下降線をたどり続けたり、ここ2年ぐらいは苦悩の日々が続いた。
「成績も下がっちゃって、収入も落ちました。本当はもっと部品にお金をかけたい時もあったんですが、なかなかそれができなくなってしまって…。でも、この前のオートレースグランプリは準決勝戦まで進めましたし、久しぶりに手応えのあるシリーズでした。だから、今回は思い切って新品のケースを買って入れてみたんです。そうしたら…。ばっちり足が来ちゃいましたよお~。本当にうれしいよお~」
さあ、ケイタ師匠よ。再び、アゲアゲモードの時はやって来た。一気に流れを取り戻せ!
「はい! 今日はすごい雨が降っていたのに、スタンドを見たら、自分のタオルを振って応援してくれるファンが目に入りました。普段は変に勝ちを意識し過ぎてしまうと、良くないことが多いんですが、何とかそんなファンの方たちに1着で応えたかったんです! それが実現して、もう、何て言うんですかね、本当にオートレースは辞められませんねっ!!」(淡路 哲雄)