「夏を制する者が箱根を制する」という格言がある箱根駅伝。第100回記念大会で初優勝を狙う国学院大は、充実した夏合宿を行っている。伊地知賢造主将(4年)、平林清澄(3年)、山本歩夢(3年)の3本柱を中心に戦力が充実。長野・蓼科高原などで箱根の頂点を見据えてギラギラと野心あふれる雰囲気で質量ともにレベルの高い練習を積んでいる。
ギラギラした夏の太陽が昇るような勢いがある。国学院大の夏合宿は、野心にあふれた雰囲気で行われている。
30キロ走などロード練習が多い夏合宿で、数少ないトラック練習が8月12日に蓼科高原の「女神湖スポーツ広場しらかば1530」で行われた。その名の通り、標高1530メートルの高地トレーニング。しかも、土トラック。全天候型トラックに比べると、足に優しく故障のリスクを減らせるが、その分、練習強度は上がる。走力別に3グループに分かれ、それぞれ心肺を追い込んだ。
Aチームでは平林、山本らがハイペースで引っ張り、ラスト1本はレースのような熱気を帯びた。伊地知は8月上旬に体調不良となり、3日間だけ練習を休んだ。回復途上のため、この日はBチームに回り、先頭を引っ張った。
「今季のチーム目標は3大駅伝すべてで表彰台(3位以内)です。確実に3位以内に入り、そして、優勝を狙っていきます。全員が、その気で取り組んでいるので、チームの雰囲気はいいです」と主将の伊地知は、充実した表情で話す。
昨季の3大駅伝は、出雲駅伝と全日本大学駅伝が2位。箱根駅伝は4位だった。強豪校としての地位を確立したが、チームは全く満足せずに、さらに高みを目指している。
「昨季は出雲、全日本が優勝に届かない2位で、箱根が表彰台に届かない3位。みんな悔しい思いをしました」と前田康弘監督(45)は話す。
昨季、圧倒的な強さで学生駅伝3冠を成し遂げた駒大が今季も勢力図の中心にいる。その駒大出身の前田監督率いる国学院大は、駒大に迫る力を蓄えつつある。
前回の箱根駅伝で2区7位の平林、同3区5位の山本、同5区7位の伊地知がチームの中心。国学院大が誇る3本柱は、今季、さらに成長した。
ホクレン・ディスタンスチャレンジ網走大会の男子1万メートルで平林が27分55秒15と好走し、2021年に藤木宏太(現旭化成)がマークした28分10秒30の国学院大記録を大幅に更新。同大会の5000メートルでも山本が13分34秒85と力走し、中西大翔(現旭化成)が2022年にマークした13分38秒45の国学院大記録を更新した。関東学生網走夏季記録挑戦競技会5000メートルでは伊地知が13分40秒51で国学院大歴代3位の好タイムをマークした。
平林は「1万メートル27分台は出て当然と思っていました。それだけの練習をしていましたので」と堂々と話した。
7月の記録ラッシュの後、一度、疲労を取り、勢いに乗って夏合宿に突入。「チームの力は確実に上がってきています。僕はエースとして他校のエースと戦う準備をしています」と平林は言葉に力を込めて話す。
昨季、平林は出雲は3区、全日本は7区、箱根は2区とすべてエース区間を担った。区間順位は、それぞれ6位、4位、7位。2年生(当時)としては健闘したが「駒大の田沢廉さん(現トヨタ自動車)、青学大の近藤幸太郎さん(現SGH)とは力の差を感じました」と率直に語る。「昨季の経験を今季に生かさなければいけません。今季も箱根駅伝は2区を走りたい」。大学駅伝界のトップクラスになった平林はきっぱりと話した。
箱根駅伝では1、2年時ともに3区で5位と好走した山本は、今季、1区出陣を熱望する。「1区を区間賞で走ってチームに良い流れを作りたい」と“切り込み隊長”に名乗りを挙げた。「箱根駅伝で優勝するためには、伊地知さん、平林、僕の3人は区間賞を取らなければいけない、と思います」と力強く話す。前田監督は「昨季はいずれも1区で出遅れた(出雲7位、全日本17位、箱根12位)。出雲と箱根で1区を任せた青木瑠郁(2年)は今季も1区候補ですが、山本の起用も考えています」と戦略の一端を明かした。ハーフマラソンで日本人学生歴代4位の1時間43秒の自己ベスト記録を持つ山本が果たす役割は、これまで以上に大きくなることは間違いない。
伊地知は箱根駅伝で1年時は8区9位、2年時は2区12位、3年時は5区7位と、異なる区間を走った。「チームのために、1区から10区まで、どこでも走れる準備をしています」と頼もしく話す。「2区と5区は経験しているし、復路に回ったとしたら『復路にはキャプテンがいる』という安心感を与える存在になりたい」と落ち着いた表情で話した。
3本柱に引っ張られるように、チームの底上げは順調に進んでいる。「(過去最高の)箱根3位だった21年のチームの主力だった土方英和(現旭化成)、浦野雄平(現富士通)、青木祐人(現トヨタ自動車)、藤木宏太(現旭化成)の4人と同じレベルの練習を今季のチームは15人ができています」と前田監督は確かな手応えを明かす。
厚みを増す選手層の中で、特に期待される選手が青木、上原琉翔、高山豪起、嘉数純平の4人の2年生だ。嘉数を除く3人は昨季、すでにルーキーながら箱根駅伝を経験。前田監督は「今季も駒大は圧倒的に強い。中大も強いです。ただ、2年生4人が3本柱と同等の力をつけたとき、国学院大にも初優勝のチャンスはあります」ともくろむ。
「オフの時間は仲良く過ごしてしますけど、練習ではバチバチやり合っています」と伊地知は充実した夏合宿に自信を見せる。
ミーティングで、前田監督は選手に熱く訴えた。「勝負が始まるのは秋からだけど、力は秋に身につけるものではない。勝つための力は夏に身につけるんだ」
2023年夏。国学院大は2024年新春に栄光を摑むための準備を着々と進めている。(竹内 達朗)