◆明治安田生命J1リーグ▽第24節 浦和1―0名古屋(18日・埼玉)
【浦和担当・星野浩司】 「君の力が必要だ」―。8月頭、スコルジャ監督(51)から直々にそう告げられた。2日の天皇杯で名古屋に0―3で大敗後、猛暑下の試合でチームメートの疲労も蓄積した時期。その言葉通り、浦和MF小泉佳穂はリーグ13試合ぶりにスタメン復帰を果たした。
「暑くて、しんどくて、出ている選手は心身ともに命を削って闘っているところを間近で見ていたし、自分なりにできる仕事はたくさんある。監督の期待に少しでも応えたいと思った。覚悟を決めてピッチに入った」
赤いヘアバンドとスパイクの小泉はトップ下で先発。開始11分、カウンターからMF大久保智明のパスに巧みなコース取りで鋭く飛び出してボールを受けた流れから、FWカンテの先制ゴールを呼び込んだ。その後はボールロストからピンチを招くなど、高い強度のゲームで力を発揮しきれていない印象だった。「最初は強気に、前向きに行ったけど、1点取ってかえって堅くなった。本当に弱いですね」。
それでも、走行距離は前半だけで6・531キロと持ち前の運動量は健在だった。相手のライン間でボールを受けて前を向いて縦パス、中盤に下がって名古屋ボランチ・稲垣祥を引き出してスペースを作る動き。「今日の試合は、後ろで引き出したり、数を多くするところのタスクだったので僕というチョイスだったと思う」。自身の役割を理解した上で、“らしさ”を見せた。
指揮官からは「佳穂はいい仕事をしてくれた」と称賛された。DFショルツは「久しぶりという感じはしなかった。練習でも非常にハードワークをしてて、コンディションはいいと思う」。MF大久保智明も「佳穂くんが入ると落ち着きが出る。前半もすごい僕の守備を助けてくれた。やっぱりやりやすい」と手応えを感じていた。
小泉は今季、開幕から11戦で10戦に先発。ACL決勝は2戦連続で先発して3度目Vに貢献するなど、絶対的な主力だった。だが、アジア制覇後は体調不良などの影響でコンディションを落とし、先発のピッチから遠ざかった。代わってトップ下に定着したMF安居海渡が高いパフォーマンスを見せる姿をベンチやその外から見る日々が続いた。
この数か月、メンタル面の葛藤が渦巻いた。5月10日の鳥栖戦(0●2)。2列目から自陣低い位置に下りてビルドアップに関わった際、自身のパスを奪われて失点した。「ミスに対する恐怖心がすごく大きい。そこ(ミス)に対して考えちゃうと悪いイメージや感情が残り、余計にミスが増える」。負のスパイラルに悩まされた。
そのもどかしさは、ACL決勝の約1か月前から感じていたという。
「自分が出てる時と出てない時のどっちがいいか考えていた。ACLはやるしかないと自分を鼓舞して、ごまかしながらやってた。自分に自信がない、プレッシャーに感じやすいとか、自分の精神的な弱さがある」。
誰かにアドバイスを受けることはできるが、最終的には自分自身との戦い。「プレッシャーや重圧、緊張は当たり前。自分を見失っちゃうのは良くないし、楽しくない。そういう意識でやりたい」。チームとしてトップ下に求められる前線で裏に抜け出してゴールを狙う動き、自身が得意とする低い位置でビルドアップを助けるプレーのバランス。自問自答しながらボールを蹴り続けた。
5月14日のG大阪戦以来のリーグ戦先発に「すごく重さを感じた。責任がかなりのしかかるので」。ホーム・埼玉スタジアムの大声援を受けながら、45分間プレーした。「試合に復帰できて勝てた。出ていない時期からの一連の流れは自分としてもいい経験になった」と、自分に言い聞かせるように言った。
チームの5戦ぶり白星に貢献。首位・横浜FMも19日に勝利したため勝ち点差は9のままだが、逆転Vに望みをつないだ。「今日も課題はたくさん出た。チームとしてもう少し攻撃の形をつくれないと厳しい。一歩ずつ頑張っていくしかない」。チーム屈指のゲームメーカーが、完全復活への第一歩を刻んだ。