箱根駅伝では「夏を制する者が箱根を制する」という格言がある。各チームが新春に栄光をつかむため、試練の夏を過ごしている。今年1月の第99回箱根駅伝で15位だった東海大は長野・白樺高原で第1次合宿をスタート。リゾートホテルの大部屋で全員が一緒に寝泊まりし、チームの一体感を深めた。注目選手は喜早駿介(4年)。高校時代は全国レベルで活躍しながら大学では苦戦が続くが、学生ラストサマーでは常に先頭を走る積極性を見せ、5区候補に名乗りを挙げた。(竹内 達朗)
リゾート地の白樺湖。家族連れやカップルの笑顔があふれる中、東海大ランナーは真剣な表情で走り込んでいる。
例年、東海大の第1次夏合宿は超人気ホテルの「白樺リゾート 池の平ホテル」を宿舎として行われる。両角速監督(57)が地元出身という縁もあり、宴会場の大広間で参加の全選手が寝泊まりするという環境で格安で宿泊している。
「ビュッフェ形式の食事はすごくおいしいです。全員で雑魚寝も楽しい。チームに一体感が生まれます」と3年生主将の越陽汰は笑顔で話す。「サウナ、水風呂が完備された温泉があり、最高の環境です。ビュッフェの食事では好きな物ばかり食べている選手もいますが、食事は一番のリフレッシュになるので大目に見ています」と両角監督も笑みをたたえながら話す。
食事と温泉に恵まれている分、練習は過酷だ。一日平均で40キロ以上も走り込む。自主練習を加えて一日平均50キロに達する選手もいる。
常に集団の先頭を走るなど、より意欲的に練習に取り組んでいる選手が、4年生の喜早だ。宮城・仙台育英高時代、中大エースの吉居大和(4年)と「2枚看板」と呼ばれ、3年時には全国高校駅伝で優勝も果たした。しかし、大学入学後、二人には大きな差が生まれた。
箱根駅伝で吉居は2年時に1区で驚がくの区間新記録をマーク。3年時は駒大の田沢廉(現トヨタ自動車)、青学大の近藤幸太郎(現SGH)と歴史に残る三つどもえのトップ争いを演じた上、区間賞を獲得した。
「今年の箱根駅伝で僕は2区の12キロ地点でタイム計測係でした。目の前をさっそうと走る大和はすごいと思った。でも、それ以上に悔しさを感じました」と喜早は正直に明かす。
喜早の学生3大駅伝出場は2年時の全日本大学駅伝の一度だけ。1区16位と苦しんだ。吉居は同じ区間で区間賞と同タイムの2位だった。「あの時も大和に1分も負けた(実際は59秒)。最後の年は、大和に負けないような活躍をしたい」ときっぱり話す。
確固たる決意を持つ喜早が狙っているのが、箱根駅伝5区だ。前々回、1年生ながら5区で区間2位と好走した吉田響(3年)が今春、創価大に転校。5区の選手育成が東海大の鍵となっている。「喜早は上り坂に強い。5区候補のひとりです」と両角監督。喜早自身も「5区で区間3位以内を目指しています」と前向きに話す。前々回の2年時は、黄色のベンチコートを着用し、5区で交通整理などを手伝う走路員を務めた。「走路員も大事な役割ですけど、やっぱり、選手として5区を走りたい」とラストシーズンにかける意気込みを明かす。
東海大は、19年の第95回大会で悲願の初優勝を果たした後、2位、5位、11位、15位と下降。最近は2年連続でシード権(10位以内)を逃している。「今季のチーム目標は箱根駅伝で予選会トップ通過、本戦3位です」と越主将は力強く話す。
駒大をはじめ、中大、青学大、国学院大、順大、早大、創価大など強豪がひしめき合う中、3位は簡単なことではない。5区の区間3位もハードルは高い。この夏に急成長が必須だ。東海大と東海大のキーマン喜早が「V字復活」を期すための戦いは、今、すでに佳境を迎えている。
◆喜早 駿介(きそう・しゅんすけ)2002年1月11日、仙台市生まれ。21歳。仙台育英高時代は3年連続で全国高校駅伝に出場し、1年7区3位、2年4区4位、3年1区6位と安定した成績を残した。3年時は吉居大和・駿恭兄弟(ともに現中大)らと共に全国制覇を成し遂げた。20年に東海大に入学。自己ベスト記録は5000メートル13分53秒42、1万メートル28分52秒13。164センチ、48キロ。