◆第105回全国高校野球選手権記念埼玉大会▽決勝 浦和学院7―2花咲徳栄(28日・県営大宮公園)
4年ぶりの聖地を目指し、浦和学院を上回る13安打をマークした花咲徳栄だったが、あと一本が出ず準優勝で幕を閉じた。元巨人・小野剛氏(45)の次男で、昨年6月に横浜から転入した小野勝利(3年)が「4番・三塁」で出場。初回1死一、三塁のチャンスで捕邪飛に倒れるなど4打数無安打に終わった。横浜1年生の21年夏、甲子園に出場していたが、「異なる学校で甲子園出場」という極めて珍しい記録とはならなかった。
ネクストバッターズサークルで試合終了の瞬間を見届けると、その場で崩れ落ちた。仲間が整列に向かう中、一人その場から動くことができなかった。「岩井監督や仲間を甲子園に連れて行くことができず、申し訳ない」。180センチ・88キロのスラッガーが、人目をはばからず大粒の涙を流し続けた。
感謝の思いをバットに込めた夏だった。転入時、不安で胸がいっぱいだったが、岩井隆監督(53)や仲間が温かく受け入れてくれた。「本当に感謝しかない。最高の仲間に恵まれたと思います」。支えてくれた仲間を甲子園に連れて行くため、規定による出場制限が解かれるこの夏に向けてバットを振り込んだ。岩井監督は、「一番練習していた。彼の加入はチームに良い勇気を与えてくれた」と全幅の信頼を寄せて4番に起用。それだけに、「期待に応えたかった」とチームバッティングに徹し、今大会10打点を挙げた。
もう一つ、特別な思いがあった。剛氏の巨人時代の同期で浦和学院のコーチを務めていた三浦貴さん(享年45)が24日に死去。実は、勝利は中学時代に三浦さんの指導を受けていた。奇しくも決勝は「教え子」同士の対決となり、剛氏も「これも何かの縁でしょうね」と目を細めていた。恩師に捧げる一打を打つことはできなかったが、「これから先の野球人生を見守っていただけたら」と勝利は空を見上げた。
今後についてはプロ志望届の提出を表明。かつて父がいた世界でのプレーを目指す。「プロに行って活躍することが恩返しになる」。誰よりも濃い3年間を過ごした苦労人は、次のステージで恩返しの一振りを見せることを強く誓った。