短い言葉にコーチングの極意が詰まっていた。6月上旬、G球場で久保康生投手コーチ(65)に、菅野と二人三脚で復活を目指した過程を取材する中で聞いたのが「やはり、人としてだから」という言葉だった。その真意は、コーチングが人間同士の信頼関係で成り立っているという意味だったのだと思う。
実際、久保コーチは春季キャンプ中に菅野に「一緒にやろうか」と提案。しかし、菅野が自身で取り組む方針を示したため、しばらくは過程を見守った。右腕は3月下旬に2軍合流したが、実際に指導を開始したのは、5月に入って菅野から助けを求められてからだった。
「本人が頑張ってみて、それでも…という時に声をかけるところから始まっていく。選手との関係はそうして進んでいく。それは若い人でもベテランでも一緒。人間というのは、いつ(相手の懐に)入れるか、いつそのチャンスをつかむか。そこまで、観察してどれだけ待っていられるかだから」
コーチングとは、選手から求められたところがスタートなのだ、と教わった。
球界OBが野球に携わる場として解説者などがあるが、同コーチは、指導者の成長には現場に立ち続けることが何より重要だと言った。
「ユニホームを着て、彼ら(選手)と同じような状況で、痛み、悩みを一緒に感じて、ここにいないと分からない。ファームでやるコーチは、選手ができなかったら自分たちの責任。『なんで分からんのやろう』『なんでさせられないんだ』って戦いながら一緒にやる。だからできたときはすごくうれしいんだ」
名伯楽のプライドを垣間見た気がした。
久保コーチは、巨人の未来も危惧している。「この球団の骨格をつくっていくのを誰にするのか。本当の辛抱強い指導者が出てきてほしい」。“久保イズム”が巨人をどう変えていくのか―。そこに生まれる人間ドラマとともに注目していきたい。(小島 和之)