西川きよし、「目玉の恩返し」芸歴60年で初の自伝 やすしさんへの思いも「二十数回目のプロポーズでコンビ結成」

スポーツ報知
撮影中も吉本社員に「えらいご無沙汰してます」とあいさつし続けていた西川きよし(カメラ・小林 泰斗)

 タレント・西川きよし(77)が、初の自伝「小さなことからコツコツと 西川きよし自伝」(文芸春秋、1760円)を出版した。芸能生活60周年を迎えたきよしが幼少期、伝説の漫才コンビ「横山やすし・西川きよし」の横山やすしさん(1996年死去、享年51)への思い、3期18年務めた参院議員時代の思い出をつづった一冊。今なお現役バリバリのきよしに一貫しているのは「全部、ご縁でした」という、出会った全ての人々への感謝だった。(増田 寛)

 「お疲れさまです」「ご苦労さまです」「またよろしくお願いします」―。吉本興業の中庭での写真撮影が終わって取材部屋に移動する道中、きよしは人が通りかかる度に足を止めた。「実は最近、ぎっくり腰をやってしまってね」と笑いながらも、腰を90度深々と曲げて社員やスタッフにあいさつ。30秒もあれば移動できる距離を、約3分ほどかけて移動した。

 「ほんま、ここまで来られたのは皆さんのおかげ以外にはないです。僕の同期はみんな、芸人をやめてしまいました。芸人で成功するのは、佐渡の金山で金塊を手に入れる確率よりも低いと思う。仲間たちのためにも、感謝せなアカンのです」。言葉以上に目で訴えかけてきた。

 芸歴60年の大ベテランだが、後輩芸人からの信頼は厚い。「師匠! 師匠!」と慕われる一方で「隙しかない先輩」といじられ、「師匠は話が長くなるから、楽屋あいさつはさっさと済ませた」とボケエピソードにも使われる。きよしは「もっと敬え!」とツッコミを入れつつ、「本当にうまくいじってくれるなぁ」と感心しているという。

 「やっぱり、芸人は笑ってもらってなんぼですから。笑いに変えてくれて『いつもありがとう』という気持ちですよ」。感謝の対象が取材部屋にいないにもかかわらず、椅子から腰を浮かせて目に見えない相手に「ありがとう」と頭を下げた。

 40歳で参院選に初当選し、3期18年務めた。2016年に旭日重光章受章、20年には漫才師として初めて文化功労者として顕彰された。人生の区切りの度に自伝出版の声がかかったが、断っていたという。だが3年前、本書の出版元・文芸春秋の副社長が漢字は違えど同姓同名の西川清史(にしかわ・きよし)氏だったことから、執筆を決めた。

 「名前のご縁でオススメいただいて、本を作ることを決めた。ただ、コロナ禍もあって、企画自体が延期を繰り返した。もう(出版は)ないと思っていたら、改めて出版することが決まり、60周年になっていたんです。いやぁ~、本当に書くのは難しかったですね」

 本の中身は、まさに各方面への“感謝状”だ。名も知らぬおじさんから、歴代内閣総理大臣に至るまで、関わった人物へのお礼をつづった。中でも特に多いのが、1967年に結婚し、半世紀以上連れ添う妻・ヘレン(76)への思いだ。

 「ヘレンに出会ってから180度、人間が生まれ変わりました。自分は幼少期から家族が貧乏で、小学生の頃から働いていて、苦労人だと思っていた。でもヘレンはハーフで戦後の日本では青い目の女の子は外見だけで『敵国の少女』とどなられたこともあったとか。だから幸せにすると覚悟を決めました」

 相方・やすしさんへの思いも尽きない。「やすしさんが漫才に僕を誘ってくれたから今がある。当時、僕は吉本新喜劇に在籍していて、やすしさんは4回コンビを解散していた“問題児”。吉本からはコンビを組むなと警告されましたが、ヘレンの後押しもあり二十数回目のプロポーズでコンビ結成を決めました。やすしさんが亡くなった日から毎日、仏壇に手を合わせてます」。今回の自伝が完成した時も、真っ先に報告したのは、やすしさんだった。

 現在、芸能生活60周年を記念したお笑いライブツアー「西川きよしのプレミアム大感謝祭」を開催中。1人で漫談を披露しているが、「やっぱり、漫才がしたいなぁ~!」と本音がこぼれた。

 「桂文枝さんとも昨年7月から『コツコツブラザーズ』というコンビを組んだりしていて、漫才をする度に漫才愛を自覚する。やすしさんのような相方が見つかるのでは?…と思い目で追ってしまう。でも、完全なやすしさんの代わりはいない。当たり前ですね。でも、大平サブローは80点くらい出してくれるかな。やっぱり、漫才の掛け合いが楽しくて楽しくてね」

 お笑い界の第一線を走り続けるきよしは77歳。「もう後期高齢者ですよ」と自嘲気味に笑うが、「まだまだやり残したことがたくさんある」と歩みを止めている暇はないという。

 「小学生から家のために働き続け、いまさら止まるという選択肢はない。今作で書き切れなかった師匠たちのエピソードや感謝の言葉もあるから、第2弾も書きたい。僕は皆さまにご迷惑をかけてきたので、鶴の恩返しではないけど、言うなれば『目玉の恩返し』です。とりあえず、今作の印税は寄付したいですね」

 大きな感謝を胸に、小さなことからコツコツと。今日も大きな目をむき出しながら、礼儀正しいあいさつを続けていく。

 【きよしが選ぶおすすめ一冊】後に知った二宮金次郎の言葉

 二宮金次郎(尊徳)の生涯を記した伝記「報徳記」という本があります。もともとは江戸時代に書かれた本ですが、分かりやすい現代語訳も出ています。「毎日毎日の小さな努力の積み重ねが大きな成果につながる」という意味の「積小為大(せきしょういだい)」という有名な言葉も、この本に書かれているものです。

 私の座右の銘で、本のタイトルにもなった「小さなことからコツコツと」は、初めての参院選の時に生まれた言葉。「大きなことはできませんが、小さなことからコツコツ頑張っていきます」と口から出てきたのが、いつしかキャッチフレーズになってね。後になって二宮金次郎さんも同じことを言っていると知りました。彼の謙虚で倹約家な姿勢が藩の財政を立て直し、自らの実績を作り、次々と仕事が舞い込んできた。その心を自分も決して忘れてはいけないと自戒しています。

 他にも最近はいろいろ読んでいますが、芸の糧になればと、今一番売れている漫才師「爆笑問題」の太田光さんの「芸人人語」(朝日新聞出版)とか、本多正識さんの「1秒で答えをつくる力:お笑い芸人が学ぶ『切り返し』のプロになる48の技術」(ダイヤモンド社)で勉強してます。また、健康のことを考えるために、五木寛之さんの「人生のレシピ 人生百年時代の歩き方」(NHK出版)や、和田秀樹さんの「80歳の壁」(幻冬舎新書)を読みました。70代をちゃんと生きると、80代が楽になるみたいですね。(談)

 ◆西川 きよし(にしかわ・きよし)本名・西川潔。1946年7月2日、高知市生まれ。77歳。17歳で喜劇俳優の石井均さんに弟子入り後、吉本新喜劇入り。66年、横山やすしさんと漫才コンビを結成し一躍、人気に。86年に参院大阪選挙区で初当選後、タレント活動を続けながら計3回当選。家族は妻・ヘレン、長男の俳優・忠志、次男の元俳優・傑志さん、長女のタレント・かの子。身長166センチ。血液型O。

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