高校野球は来春の第96回センバツ大会と各都道府県大会から、2年の猶予期間を経て、金属製バットをより反発の少ない新基準のものに完全移行し、従来基準による甲子園大会は今夏で見納めとなる。打球による投手の受傷事故防止などが目的で、日本高野連が昨年2月に決定。すでに使用しているチームもあり、元オリックス、巨人の東大阪大柏原・土井健大監督(34)ら現場トップは飛距離の大幅な落ち込みと音の違いを説明した。(取材・構成=アマ野球取材班)
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明らかな違いを感じた。土井監督は昨秋の大会が終わってから、現1、2年生に新基準バットでの練習を課している。
「選手は『飛び方が違う』と驚いています。印象的なのは、外野フライは反応しづらいことです。従来基準なら『カキーン』と、芯に当たったように聞こえたら外野手は下がりますが、新基準は芯に当たっても『パコン』という音がします」
打球音で詰まったと勘違いした外野手が前進すると、芯に当たった打球が頭を越えることがよくあるという。ナインからは「音、ムズいっす」という声が漏れるようになった。「まずは耳から慣れていかないといけません」と守備面での対策の必要性を感じている。
高校時代(履正社)に「ナニワのミニラ」と呼ばれ、通算43本塁打のスラッガーだった土井監督は新基準バットで試し打ちを行った。「従来基準は、めちゃくちゃ飛びます。私も新基準を使っていますが、芯に当たっても(比較して)5メートルは飛ばないです。私の感覚で言うと、ボールを押し込めないんですよ」。捉えたと思った当たりがフェンス手前で失速することに驚かされた。
智弁学園の小坂将商監督(45)も同じ意見だ。「芯に当たらないと全然飛ばない(笑い)。細いし、音も違う。点数は確かに入らない。野球のスタイルは変わると思います」と小技や機動力が大切になると力説。関大北陽・辻本忠監督(46)は「ギリギリで抜けていたような打球が全部、内野ゴロになると思います」と長打だけでなく、安打そのものが激減すると想定した。
土井監督は新基準の移行に伴い、新たなトレンドを予言した。「将来的には、高校野球でも木製バットを使う選手やチームが出てくると思います。新基準より木製の方がしなるし、押し込めるから芯に当たれば飛ぶ。ルール上はOKですから」。費用面などの課題はあるが、プロ仕様のバットで打席に立つ高校生が出てくるかもしれない。
報徳学園・大角健二監督「1、2年生は試合でも使っています。安打が出にくいですし、しっかりいいスイングをしないと打球が飛ばない」
幕張総合・柳田大輔監督「2年生以下は練習試合で使っています。ビックリするくらい飛ばなくなる。ヒットを打つためには、打球速度やスイングスピードを上げなくてはいけない」
◆金属製バットの導入と変遷
▽1973年 来日したハワイ選抜チームが初めて日本で金属製バットを使用。加盟校の経済面での負担軽減に有効と高く評価した。
▽74年 春季都道府県大会から金属製バットの使用を許可。
▽93年 音響(消音)対策を施した金属製バットのみ使用する。
▽99年 バットの最大径67ミリ未満、重量900グラム以上、傾斜率を規定した新基準を定める。
▽01年 秋季大会から新基準バットに完全移行
▽22年 新基準制定