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【高校野球】来春採用の新基準バット 日本高野連の狙いとは…「木製バットでやる野球に近づけていく」

従来の金属製バット(左)はN(ニュースタンダード)、新基準の金属製バットはR(リパルション=反発)の表示で識別する(日本高野連提供)
従来の金属製バット(左)はN(ニュースタンダード)、新基準の金属製バットはR(リパルション=反発)の表示で識別する(日本高野連提供)
(左から)木製バット、従来基準の金属製バット、新基準の金属製バット(日本高野連提供)
(左から)木製バット、従来基準の金属製バット、新基準の金属製バット(日本高野連提供)

 高校野球は来春の第96回センバツ大会と各都道府県大会から、2年の猶予期間を経て、金属製バットをより反発の少ない新基準のものに完全移行し、従来基準による甲子園大会は今夏で見納めとなる。打球による投手の受傷事故防止などが目的で、日本高野連が昨年2月に決定。すでに使用しているチームもある。新基準はどのように作られたのかを日本高野連の古谷純一事務局次長(41)に聞いた。(取材・構成=アマ野球取材班)

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 マウンドから本塁まで18・44メートル。投球後の投手は、打者との距離が15・84メートルまで縮まった状態で鋭い打球を受ける場合がある。日本高野連は2019年9月から金属バットの新基準作成に動いていた。

 古谷氏(以下古)「(理由の)一つは選手の安全面。(19年夏の)選手権大会で打球を顔面に受けた(岡山学芸館の)投手が頬骨を骨折。これが一つのきっかけ。それと(二つ目は)19年に投手の障害予防に関する有識者会議があり、特に現場出身の委員の方々から、打高投低で投手の肩、肘の負担が増してきているという指摘をいただいた。ご意見を踏まえ、より木製バットに近づけていきましょうとなってきた」

 新基準バットは従来と比べ、最大直径を67ミリ未満から64ミリ未満と細くし、打球部は約3ミリから約4ミリ以上と厚くし、トランポリン効果と呼ばれる反発性能を抑制。重量は900グラム以上を保つ。

 古「あくまでも木製バットの代用。今の木製の主流の(最大直径)64ミリで一度やってみようとなった。67ミリを64ミリにすれば、そのままの肉厚なら、質量は20グラムぐらい落ちる。900グラム以下になると、金属バットといえども折れやすくなる。折れると包丁が飛ぶようなもの。それは絶対に避けたい。その20グラムをどこに求めるかが課題だったが、(打球部の)肉厚を約3ミリから約4ミリ以上と1ミリ増して落ち着いた。裾野の広い高校野球で、より経済的負担を求めない形で、木製と同等の反発を求めていくべきだと考える」

 メーカー10数社、主に国内2工場で作られる新基準バットは、昨年中に販売開始。価格は従来のものより約1万円高く、3万5000円程度。グリップの上部に、従来基準は「N(ニュースタンダード)」、新基準は「R(リパルション=反発の略)」と表示して識別する。日本高野連は今秋、予算2億5000万円で、全国の加盟校(昨年度で硬式3857校、軟式399校)に2本ずつ配布予定だ。

 古「肉厚にしているので材料を多く使い、工程も増えている。(従来のバットより耐久性が増して)バットの寿命は延びているが、寿命はある。チーム内で担当を決めるなどして点検してもらいたい。(新基準バットは)肉厚なので傷がつきにくいが、先端部は傷、へこみが出やすい設計。折れる前にシグナルを感じて、替えてほしい」

 “飛ばないバット”と言われる新基準バットで、どれくらい飛ばなくなるのか。

 古「飛距離は風の影響など、いろいろな要素があって一概には言えないが、初速は約3・6%減少。初速が遅くなると飛距離は間違いなく落ちる。反発は5~9%落ちるので、フェンスぎりぎりの打球がフェンス手前で失速したり、外野手の頭を越えていたものが越えなかったりする。いわゆる守りの野球、足(走塁)も含めて、日本の緻密な野球が増える可能性がある」

 打球が飛び過ぎるため、最大直径67ミリ未満、重量900グラム以上と定めた現行のバットを甲子園で使い始めたのが02年。同年春は前年より本塁打が減ったが、夏は増えた。今回も、選手が新基準バットに適応する可能性はある。

 古「食トレや筋トレで900グラム以上のバットを難なく振れる力がついてきた。今回も未来永劫、これで良いとは思わない。安全をベースに模索し続ける」

 本塁打が減れば、高校野球が面白くなくなるという声もある。花巻東(岩手)・佐々木麟太郎内野手のように、高校通算で130発を超える選手は今後、現れないかもしれない。

 古「本塁打以外にも野球の魅力はたくさんある。高校野球でいえば、部員が無心でボールを追い、ひたむきにやるところ。代打でも代走でも守備でも活躍できる。本来の野球、木製バットでやる野球に近づけていくという意味では、(新基準導入は)非常に価値のあることだと思う」

◆金属製バットの導入と変遷

▽1973年 来日したハワイ選抜チームが初めて日本で金属製バットを使用。加盟校の経済面での負担軽減に有効と高く評価した。

▽74年 春季都道府県大会から金属製バットの使用を許可。

▽93年 音響(消音)対策を施した金属製バットのみ使用する。

▽99年 バットの最大径67ミリ未満、重量900グラム以上、傾斜率を規定した新基準を定める。

▽01年 秋季大会から新基準バットに完全移行

▽22年 新基準制定

従来の金属製バット(左)はN(ニュースタンダード)、新基準の金属製バットはR(リパルション=反発)の表示で識別する(日本高野連提供)
(左から)木製バット、従来基準の金属製バット、新基準の金属製バット(日本高野連提供)
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