斎藤佑樹、大石達也、福井優也を早慶戦で撃破…慶大・江藤省三監督の“魔法の言葉”「じーちゃんになっても自慢できるぞ」

スポーツ報知
教え子たちと早慶戦を観戦する慶大・江藤省三元監督(左から石井新さん、渕上仁さん、湯本達司さん=カメラ・加藤弘士)

 120周年を迎えた早慶戦。選手に指導者、チームスタッフに応援関係者、観戦した一般学生に至るまで、人の数だけ神宮の杜にまつわる無数の想い出がある。

 5月28日の第2戦。2万3000人が集結し、解禁された声出し応援のもと、熱気が渦巻いたネット裏には、懐かしい顔が4人並んで座っていた。

 2010年春の早慶戦を2勝1敗で制し、就任1季目で天皇杯を手にした監督、江藤省三さん。そして当時の4年生だった主将で二塁手の湯本達司さん=野沢北=、攻守にセンス抜群の遊撃手・渕上仁さん=慶応=、主務としてチームを支えた石井新さん=鎌倉学園=だ。

 元監督が早慶戦を観戦するのは珍しくないが、わざわざチケットを買って当時の選手たちと一緒に…というのはあんまり見たことがない。そこに江藤さんの人柄がにじんだ。

 81歳には見えない若さあふれる表情で、神宮のグラウンドを見渡すと、江藤さんは言った。

 「このメンバーで見られるなんて、最高だよね。ショートゴロで、セカンドがフォースアウト…あの優勝した瞬間はね、何度でも思い出すんですよ。忘れられないんだよね」

 当時の早大はキャプテンでエースの斎藤佑樹に大石達也、さらには福井優也と、その秋にドラフト1位でプロに進む3投手を擁して、絶対的優位にあった。

 対する慶大はエース左腕・中林伸陽が卒業し、投手陣全員がリーグ戦未勝利でスタート。湯本さんは「実績のあるピッチャーが誰もいなくて。どうなるんだろうと思っていたんですけど…」と振り返る。

 すると、江藤さんの采配初戦で2年生左腕の竹内大助が東大相手にノーヒットノーランを達成。さらには同じ2年生の福谷浩司がリーグ戦中に頭角を現してきた。とはいえ、ドラ1候補投手を3人も擁する早大の優位は揺るがなかった。

 勝ち点を挙げた方が優勝の早慶戦。試合前に江藤さんはナインに呼びかけた。

 「君らは『佑ちゃん世代』だから値打ちがあるんだ。早稲田の3投手を打てば、じーちゃんになっても自慢できるぞ」

 選手たちは爆笑に包まれた。緊張とは無縁のままに、優勝した。

 渕上さんが記憶をたどる。

 「ずっと優勝できていない中で、江藤さんが監督に就任された時、『僕は優勝させるよ』と言って下さったんです。それを聞いて、本当に優勝したいと思って。チームのみんなで『監督を信じて、一生懸命やろう』と話したりしたんですよね」

 主務として、江藤さんと公私ともに長い時間を過ごした石井さんは明かす。

 「監督は負けて泣かないんですけど、勝つと泣くんですよ。初勝利の時と、優勝した時でした(笑)」

 それを聞いた江藤さんは、照れながら言った。「オレは人前で涙を流したことなんか、一度もないよ」

 勝利の歓喜、敗戦の悔しさ。神宮の舞台で闘う男たちの様々な想いがぶつかり、空に舞い上がっていく。今もなお、白球に懸ける若者たちの熱情は、不変である。(編集委員・加藤 弘士)

野球

個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真 法人向け紙面・写真使用申請 報知新聞150周年
×