競馬を大衆化した一つに、ダビスタというゲームがある。私は、ダビスタが誕生する前から競馬は観ていたが、同じ世代ではダビスタの影響を受けた人は少なくない。配合の奥深さを堪能できる点で、血統を世に知らしめた意義は大きいと感じる。ゲーム誕生の頃は、牝系は重視されなかったが、近年のダビスタでは牝系も名前が載るようになった。ゲームの進化は、ファンの競馬に対する向き合い方も変わってくる。
牝系のクロスは、海外では昔から積極的に行われていた。デインヒルは、ノーザンダンサーの母であるナタルマの3×3クロスがある。ヨーロッパとオーストラリアで幾多のG1馬を送り出し、世界的な大種牡馬となった。国内の繋養(けいよう)種牡馬で、サイアーラインにデインヒルの名があるのは、ハービンジャー、サンダースノー、ヤングマンパワーしかいない。ハービンジャーには、デインヒルが持つナタルマのクロスに、母系にも5代遡るとナタルマの名があり、強固なクロスを持つ。また、ハービンジャーの父の祖母にケラリの名があるが、ファントムシーフの母であるルパン2の3代母にもケラリの名がある。
ファントムシーフは、母系クロスの詰まった、野心的な配合と言える。ファントムシーフの配合を尋ねた時、谷川牧場の谷川貴英代表は「牝系クロスは、遺伝力がより強くなると考えています」と話していた。
「ファントムシーフの場合、ハービンジャーの父であるダンシリの母ハシリと、母ルパン2の祖母であるアライヴが全姉妹なので、相当強いクロスになる点は気になり、体質面での心配はありました。ただ、生まれてから何もトラブルはなく、競走馬としても丈夫で、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれていますから、ホッとしています」(谷川代表)
皐月賞は、向こう正面で落鉄のアクシデントがあった。「レース後、ルメール騎手が落鉄の影響で真っすぐ走らせることがしづらかったと話していたそうです。広い東京コースで、素晴らしい馬場で改めて期待したいですね」と、谷川さんは気持ちを切り替えていた。共同通信杯を勝ち、皐月賞でも3着に健闘した馬にもかかわらず、ジョッキーが決まるまで時間を要した。
「ルメール騎手はスキルヴィングがいて、他に声を掛けている中で、武豊騎手が空いていたと聞き、頼もしいパートナーが見つかって良かったと思いました」と話す。1973年、空前のブームを巻き起こしたハイセイコーを破り、ダービー馬となったタケホープは、谷川牧場の生産馬。あれから半世紀、アグレッシブな配合が夢を叶える瞬間を応援したい。(競馬ライター)