内田裕也さん&樹木希林さん“ロックな夫婦”が大暴れ 娘・也哉子さん公認の実名フィクション…樋口卓治著「危険なふたり」

スポーツ報知
ロックな夫婦を描いた最新作を手にする樋口卓治さん

 放送作家・樋口卓治さん(58)の最新作「危険なふたり」(幻冬舎刊、1760円)は、ロックンローラーの内田裕也さん(19年死去、享年79)と女優の樹木希林さん(18年死去、享年75)夫婦を実名で登場させた意欲作だ。ドラマの脚本家を主人公にしたフィクションのストーリーに、型破りな夫婦の実在のエピソードが交差する。執筆が続くうち、樋口さんの頭の中では、あの夫婦がどんどん動き出す感覚があったという。(宮路 美穂)

 「危険な―」は、離婚したばかりの脚本家・三林草生介(みつばやし・そうすけ)が、ひょんなことから裕也さん&希林さん夫婦を主人公にしたホームドラマを書く依頼を受けることから始まるストーリー。結婚3か月で婚姻関係は破綻し、別居生活は40年以上というホームドラマの対極とも言える存在に打ちのめされ、脚本が頓挫しかかった頃、ふと希林さんの自宅を訪れると本人が現れ「協力する代わりに、手伝ってほしいことがある」と切り出され、不思議な共同生活が始まる。

 事実と創作が入り交じった不思議な作品。もともとは別々のベクトルで進んでいた話が合体する形になった。数年前から樋口さんは個人的に希林さんと裕也さんの関係性を調べ始めていた。

 「雑誌とかインタビューとかを拾っていくと結構、分厚いまとめになった。自分の仮説だと、奥さんが売れて、旦那さんが好き勝手なことをやる夫婦ぐらいに思っていたのが、調べていくうちに、もっと深いんじゃないかな、と思い始めたんです。でも、これを時系列に並べてドラマにするのは違うというか…。一度寝かしていたんです」

 しばらくして新作を書き下ろすこととなり「もともとは『寂しい』というテーマについて、一回書いてみたくて。一昨年頃から、寂しさと同居しながら脚本を作っていくおじさんの話を書き始めた。『寂しい時に、自分と対話する』ということを書いていこうと思ったんですが、それって自分以外、誰も出てこない。会話の相手みたいな人がいて、自分の寂しさを伝えたら、いろんなこと言って打ち返してくれる図式がピッタリなのが希林さんなのかな、と思うようになりました」。

 プランを伝えたところ、編集者も面白がってくれたが、実名を出すならば越えなければいけないハードルがあった。「『これって、許諾が要りますよね?』って話になったんです」。2人の一人娘・内田也哉子さんにコンタクトを取ることになった。

 「最初は企画書を作ろうと思ったんです。でも企画書だけだと、勝手に夫婦のことを面白がっている感じに見えちゃいそうだから、全部一度書くしかないなと思った。(編集者から)『書いて、ボツになったとして、諦められますか?』と言われて。受験と一緒ですよね(笑い)。でも自由に書くのと違って、『この人にキャッチしてもらうんだ』という緊張感で書けた」と振り返る。自分の中でも、筆が進んでいくうちに、本当に希林さんと対話しているような感覚が宿ったという。

 昨年7月に書き上げ、手紙とともに也哉子さんの事務所に託し、返事が来るまでの時間は永遠にも似た感覚があった。「読む気さえ起きないかな、とか断る理由を考えてるのかな、とバッドシミュレーションばかりしていて。でも、8月上旬ぐらいの時、編集者のところに也哉子さんからお電話があって、感想とともに『報道陣を招いていた部屋は違うフロアにありますよ』とか『孫はこういう呼び方していました』とか教えてくれて…。OKなんだ!とホッとしました」

 也哉子さんからの感想は励みになった。「手前みそになってしまいますが『母が生きていて、本当にあの家で生活して主人公とやりとりしてるような気がしました』と言っていただけた。裕也さんの事務所の方も『面白かった』と言ってくれた」。荒唐無稽な設定でもあるにもかかわらず、好意的に受け止めてくれたことに救われた。

 主人公の草生介には、脚本家である自分自身も投影されている。「あのドラマがバズったとか、自分が関わっていないドラマの制作発表とか見たりする時、置いてけぼりになる感覚が今でもあるんです。あと、SNSでいい作品を褒めて、自分は関係ないのに、その仲間になったような顔をしてるのがすごい嫌で。書けなくて死にたいと思う日や、2行書けて『俺、天才かも』とか激しい起伏があったりもするけど、創作することこそ面白いんだというのが書きたかった」

 生前の希林さんも決して「面白さ」を見過ごさない人だった。「亡くなったあとに、名言集みたいなのが話題になって、神格化されている姿に違和感があったんですよ。もう少し俗っぽい人であったとも思っているので、今回そこを崩したかった」と話すと、「親戚でもないのにね」と少し恥ずかしそうな顔をした。「でも、本当に他人なのに、もう他人じゃないみたいな感じなんです」。フィクションを飛び越え、ロックな夫婦は文字の海の中で暴れまくっている。

 ◆樋口 卓治(ひぐち・たくじ)1964年10月22日、北海道生まれ。58歳。放送作家として「笑っていいとも!」「さんまのSUPERからくりTV」「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」などを担当し、2012年「ボクの妻と結婚してください。」で作家デビュー。著書に「ファミリーラブストーリー」「喋る男」など。脚本家としてもテレビ東京系「共演NG」などを手がけた。

樋口さんが選ぶおすすめ一冊

 ◆内田也哉子著「ペーパームービー」(朝日出版社、1386円=樋口さん所蔵の文庫版は講談社、440円)

 也哉子さんが1996年に出されたエッセーです。2人のことを調べ始めた当初に入手しました。也哉子さんって文章がすごくうまい。希林さんや裕也さんのことだけではなくて、幼少期の思い出や、自分の友達とかのお話も出てくる。也哉子さんが小学生になったばかりの頃、ある事件で留置場に入っていた裕也さんが面会の場で「トマトジュースください」と刑事さんにリクエストしたエピソードがすごく好きで。「危険なふたり」にも使ったんですが、この本から参考にさせていただきました。

 こちらは也哉子さんの生い立ちを想像するけど、寂しい思いをしたとかは、あんまり書かれていない。小説を書くうえで、家族の在り方を考えるきっかけになりましたね。(談)

芸能

×