くじ運悪く“外れ”位置のはずが…ガッツ松井の背中が真正面 ~スポーツ報知カメラマンが見た瞬間の記憶~

スポーツ報知
逆転の12号2ラン本塁打を放ち、ガッツポーズする巨人・松井秀喜

◆1997年5月22日 巨人・横浜戦(越川亘カメラマン)

 東京ドームに歓声が響いたのは、1点を追う6回だった。逆転2ランを放ちゆっくりと一塁を回った松井秀喜が右拳を突き上げた。あまりガッツポーズなどしない選手だったので夢中でシャッターを切った。

 カメラが急速に進化し、今では当たり前のオートフォーカス(AF)が精度を上げて“ピンぼけ”が少なくなった頃だった。遠ざかる被写体を手でピント合わせるのは難しいが、AFは難なくこなしてくれた。

 当時は36枚撮りのフィルムカメラ。必要なカットを無駄なく押さえられるよう、いつも残り枚数を気にしていた。特に松井は撮影するものが多いため、打席の前には必ず新しいフィルムに入れ替えていたものだ。

 当時のネガを見返すと、一塁を回ってガッツポーズする背中は13枚目から6枚連続で撮っていた。確か、打つまでの4球で8枚、本塁打のスイングから一塁を回るまでで4枚―。その後、投手の後方を走る様子を2枚に、三塁コーチとのタッチする場面を数枚撮影し、200ミリズームレンズを装着した別のカメラに持ち替えて、ベンチ前の祝福を撮ったはずだ。

 巨人戦の撮影位置は毎試合、取材する各社が抽選して決める。この日のくじ運は悪く、外野寄りのポジションだった。ところがこの時、一塁を大きく膨らんで回った松井の背中がほぼ正面に来た。デジタルカメラのようにすぐ確認はできなかったが、シャッターを切った時に「1面の写真が撮れた」と確信した。

 【1997年5月23日付紙面より】松井、驚異の逆転弾。横浜のルーキー川村の前に2安打と沈黙していた巨人を救ったのはゴジラだ。6回1死一塁で、低めにボールとなるフォークを、泳ぎながら右翼席へと放り込む、これぞプロの技を見せつけた一発。主砲の4試合19打席ぶりの12号2ランアーチと、ガルベスの今季初完投の力投で巨人は2試合連続完投勝ち。23日からのヤクルト戦に勢いがついた。(所属は当時)

◆同じ日のお立ち台で男性が乱入

 今なら大事件だろう。同じ日、ヒーローインタビューに初老の男性が乱入していた。

 男性はカメラを首からかけて私の横にいた。何かの関係者かと思っていたが、インタビューが終わったガルベスとがっちり握手、「サンキュー」と応じたガルベスの右頬をパチンと叩いた。ガルベスの笑顔が消えみるみる険しくなるのが分かった。

 今より警備は厳しくなく、報道陣は小さな許可証代わりのバッジでグラウンドに入場できた。のんびりした時代だったのかもしれない。

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