80歳の誕生日の3日に歌手活動を引退する歌手の橋幸夫が1日、東京・浅草公会堂でラストコンサートを行った。
すがすがしい表情だった。数ある楽曲の中から、最後に選んだのは、吉永小百合(78)とのデュエット曲「いつでも夢を」。橋は「ご一緒に」と促し、観客約1100人と合唱した。紙吹雪が舞い、紙テープが飛ぶ中、「ごきげんよう!」と右手を振り、笑顔で63年にわたる歌手人生の幕を閉じた。
引退を決断したきっかけは老化と喉の筋力の衰えだった。「低音を響かせようとすると、声が割れるようになった。自分の声にがっかりすることが増えた」。コロナ禍で歌唱機会が減少した影響も大きかった。
所属する「夢グループ」の石田重廣社長によると、この日も、橋から「今の歌声であればカラオケで十分」という申し出があり、バンドを置かないシンプルなステージに。楽曲を1コーラスか2コーラスにし、デビュー曲「潮来笠」や「霧氷」「子連れ狼」など29曲を歌い上げた。
21年秋の引退会見後、約1年半かけてラストツアーを開催。全国各地で最後の別れを告げてきた。「引退宣言で辞めると言っちゃったので。言ったことを撤回するのは嫌い。誕生日(の5月3日)は菩提(ぼだい)寺の傅通院でお祝いをします」とにっこり。「63年というと相当長い期間。私の後輩たちもだんだんと辞めたり、先輩たちもほとんどいらっしゃらない。これは当たり前のことで仕方がないけど、ちょっと寂しいなとも思います。よく63年頑張って来られたなと、感謝でいっぱいでございます。もう、感無量です。やることはないんでスッキリしました」と喜びをかみ締めた。
22年に京都芸術大通信教育部に入学した。今後については「アーティストからアートに。書道と書画、芸術の世界に進みます。7月5日のデビュー日を目標に全国で個展をやりたい。ゆっくりと書家の道に行きます」と意欲を見せた。すでに50作品ほどが完成しているという。マイクを筆に持ちかえ、橋の第二の人生が始まる。(加茂 伸太郎)
4月1日のオーディションで選出された「二代目 橋幸夫」がこの日、ファンに初お披露目された。滋賀県の大学生・川岸明富(あとむ)さん(21)、大阪府の大学院生・徳岡純平さん(22)、東京都在住(大分県出身)の会社員・進(すすむ)公平さん(27)、「夢グループ」所属歌手の小牧勇太(42)の4人。グループ名「y(幸夫)H(橋)2」で夏のデビューを目指す。
継承セレモニーでは、左胸に「yH2」のワッペンの付いたジャケットが贈呈された。小牧は「親や周りから、『お前が橋幸夫の名前でできるのか。不安の方が大きいよと』言われた」と苦笑い。橋は「私のことをどれだけ知っているか、分からない若い子たち。歌を聴いていませんし、(実力は)まだ分かりません。期待しています」とエールを送った。
今後3か月間はレッスンを積み、新曲発売イベントで、それぞれの芸名が発表される。
◆橋 幸夫(はし・ゆきお)1943年5月3日、東京・荒川区生まれ。79歳。呉服屋の9人きょうだいの末っ子として誕生。60年「潮来笠」でデビュー。日本レコード大賞新人賞、NHK紅白歌合戦初出場(通算19回出場)。62年「いつでも夢を」、66年「霧氷」で2度のレコード大賞。舟木一夫、西郷輝彦さんと共に「御三家」と呼ばれ、一時代を築いた。2017年に凡子夫人と離婚。18年に一般女性と再婚。血液型A。