◆明治安田生命J1リーグ▽第7節 名古屋0―0浦和(9日・豊田ス)
【浦和担当・星野 浩司】 キックオフの約50分前。浦和のGK西川周作は、感慨深げにゴール裏の観客席を見つめていた。
ウォームアップのためピッチに姿を見せると、アウェーに詰めかけた大勢の浦和サポーターから「西川」のチャント(応援歌)とコールが沸き起こった。無数の大旗を振りまくり、大声と拍手が会場にこだまする。「うれしかったです。込み上げてくるものがありました。特別な日になりました」とかみしめた。
Jリーグの試合では一見普通の光景にも見えるが、今回は違う。コロナ禍で制限されていた声出し応援が全面的に解禁された中、西川個人の応援歌がスタジアムに響くことはまだなかった。「このスタジアムで、僕がコールをされなくなったキッカケをつくってしまったのは自分ですし…」と西川。その“キッカケ”とは、約1年半前に遡る。
21年12月、豊田スタジアムでの最終節・名古屋戦。コロナ禍で禁止されていた声出し応援を繰り返した浦和サポーターに対し、前半終了時に西川が声出しをやめるように関係者へ強い口調で訴えた一幕があった。その様子はDAZNの中継で配信されたこともあり、西川とサポーターの間に一定の距離が生まれる一因となっていた。
「そこからお互いに歩み寄りながら、僕は結果で示すしかないと思っていました」。上位を走るリーグ戦に加え、ACL決勝を間近に控える中、守護神への応援が復活した。
「約1年、ファン・サポーターの方々との関わり方を大事にしてきた中で、今日このスタジアムでまた新たなスタートという意味で、自分に対しての期待や声援を聞いて、しっかりと責任を持ってプレーしなければいけないと改めて思いました。また初心に戻り、また応援してもらえているというありがたみを感じることができました」
この日は西川が何度もチームのピンチを救った。
前半20分、右CKから名古屋MF稲垣のシュートを自身の目の前でMF内田に頭でコースを変えられても素早く反応して左手でセーブ。後半39分にはゴール前の混戦から受けたFWユンカーのシュートも「しっかり我慢して対応できた」と冷静にブロックした。
最も脅威だったのはFWマテウスだった。「今のJリーグでCKでも落とすボールを蹴れるのは彼だけ」と警戒したが、鋭く縦に落ちるキックにも慌てなかった。予測が困難なボールに対し、「前掛かりになったり動きを読んだりしないこと」を意識し、反復練習してきたステップを踏んで対応した。同27分にマテウスとゴール前で1対1のピンチに見舞われたが、絶妙な間合いで構え、シュートは左へ外れた。
ショルツ、ホイブラーテンの両CBとの連係も光り、リーグ2試合連続の無失点に抑えた。36歳の守護神は「相手にシュートを打たせる前にいかに自分の前の空間を閉じるかということは、手応えを感じられた90分でした」「今年に入って無の境地というか、無心で試合を楽しめている」と充実ぶりを明かした。
今季、2月25日の横浜FM戦で開幕2連敗を喫した直後、ゴール裏からはブーイングの後にチームを鼓舞するチャントが聞こえてきた。19年の決勝で敗れた強豪アルヒラル(サウジアラビア)と再戦するACL決勝(4、5月)を制するには、監督・選手・スタッフ、そしてサポーターの団結が不可欠だ。大一番まで約20日。西川のコール“解禁”に、チームとサポーターとの結束を見た。