◆明治安田生命J1リーグ第7節 横浜FM5―0横浜FC(8日・日産スタジアム)
【横浜FC担当・田中孝憲=@sph_tnk】サッカーファンは5―0を「夢スコ」とネット上で呼ぶ。文字通り「夢のスコア」の略だ。前半が0―0で終わった時点で誰が横浜FMの「夢スコ」を予想したか。それくらい横浜FCの前半は素晴らしかった。
しかしサッカーは90分。前半の45分はいったい何が良かったのか。そして後半、何が起きたのか。
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◆狙い通りの前半
ほぼ完璧に思える前半だったが、隠れた失点場面で守備の役割が明確になった。前半6分、自陣右サイドを起点にした攻撃でゴールネットを揺らされた。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の結果、オフサイドで命拾いした。
この時、ボランチの三田は守備陣を集めて話し合っている。「(和田)拓也が中央に引き出されて水沼選手を使われる部分が多かった。なるべく吉野に『寄りすぎるな』という話をした。遅れていくのと、ジャストで水沼選手に行けるのでは違う。拓也にジャストで行かせたかった。そこは修正できたんじゃないかと思います」。この会話で横浜FCの守備は引き締まった。
◆驚いたカプリーニの守備
前半、ハイプレスが利いた理由の一つに、トップ下のカプリーニの奮闘を特筆したい。1月の新体制会見時に「太め残り」姿で現れたのは、“ブラジル人助っ人あるある”。そこから約3か月。キレのある動きで、ボールを奪い速攻につなげた。「行くところと行かないところをしっかりバランス良くできたからだと思います」と説明。ただ「プレスをかけて奪ってからの最後のクオリティが足りなかった」と悔しがった。この「クオリティー」の差が、結果を分けることとなる。
◆欠いた「ラスト」の精度
右ウィングバックで先発したMF近藤は、敵陣深くまで入り込んでクロスを入れる場面が目立った。「(相手の)永戸選手が高い位置を取ってくるというのが事前の分析であった。奪った後の切り替えで自分の所で数的優位が作れると思っていた」。スカウティングを生かした攻撃で、ゴール前までには迫った。
ただ精度が足りない。FW小川航にクロスが合わない。「そこの精度が足りない。それが合っていれば自分たちが先行できた可能性があった。そこの責任を感じています」と背負い込んだ。
◆指揮官が見た「前半」
試合後、会見場に現れた四方田修平監督の目は、少し赤いように映った。「前半良かった要因としては、フレッシュな状態で攻守に集中力を保った中で、自分たちのゲームプラン通りに進められたことだと思います」と説明した。
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◆崩れたゲームプラン
近藤によると、後半開始時の円陣で「入りの部分でいつも自分たちのミスからやられている。そこは気をつけよう」と呼びかけ合った。後半の笛から59秒後、まさかであり、今季目にしてきた光景が再び起きた。横浜FMのマルコス・ジュニオールに、DF和田が背後からのハイプレスでボール奪われた。揺れるゴールネット。一瞬で追いかける展開となった。
前半の“立ち上がりの失点”はVARで救われたが、痛すぎる後半立ち上がりの失点だった。三田は追いかける展開のゲームプランについて「正直、想定していなかった」と明かす。裏を返すと前半の良さに自信を持っていた。「後半開始早々にミスで失点してしまって、みんなが気持ち的に『ここまで耐えてきたのに…』とちょっと落ちてしまった部分。そこは自分が奮い立たせなきゃいけなかった」と悔やんだ。
◆カウンターの術中にはまる
そこからは、昨季J王者の経験を見せつけられた。0―1の間はまだチャンスも作れていたが、後半17分の2失点目が響いた。指揮官は「より返すという意識が強くなった結果、攻撃と守備のバランスで攻め(に傾い)た」。結果、カウンターを浴び続け、外国籍選手にゴールネットを揺らされ続けた。
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横浜ダービーは前半が今季ベストな内容、後半がワースト5失点で終わった。次節以降に向け、前半45分のいいイメージを共有しつつ、90分完遂できるようにしたい。三田は常々言っている。「横浜FCって嫌らしいな、簡単にポイントを取らせないな、というチームにならないといけない」。すぐに強豪クラブにはなれない。目標を共有し、全員で地道にやるべきことをやっていくしかない。
横浜FCは、日本サッカー界の悲しい歴史を経て立ち上った。エンブレムに描かれているのは不死鳥。関わったすべての人々の願いを背負い、熱い思いを守り続けるという願いが込められている。殴られっぱなしでは終われない。やられたらやり返す機会が、今季はまだ残っている。