「ヤマト、ガンダムは日本アニメのニュータイプ」…氷川竜介さん著「日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析」

スポーツ報知
アニメを「工業製品」に例える氷川竜介さん(カメラ・池内 雅彦)

 アニメ・特撮研究家の氷川竜介さん(65)が「日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析」(KADOKAWA、1056円)で、自身が研究したアニメの革新について徹底解説した。1974年の「宇宙戦艦ヤマト」、79年の「機動戦士ガンダム」が製作された時期に最も革新があったと話し「いずれも後に与えた影響が大きい作品だった」と分析した。(太田 和樹)

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 「高校生の時に『宇宙戦艦ヤマト』が始まったのですが、それまでもアニメも特撮も好きでよく見る方でした」という氷川さんが気になったのは「どのようにしてアニメが作られているのか」だった。

 「セル画を一つずつ増やして撮影していますっていうのは分かるけど、概念がおぼろげだった。漫画家のアシスタントが一生懸命(セル画を)描いているのかと思っていたくらいです」

 アニメの製作現場に興味を持った氷川さんは実際に現場を訪問。そこで見た光景からアニメの研究をしようと考えた。

 「場当たり的に描いているのではなく、何十、何百の人が統一して描くための設計書のようなものがあるんです。すごい作品を描くためにはすごい理由があるということを知った。今でもそうなんですが、なぜ自分が好きだと思ったか、感動したか、理由が知りたくなったんです」

 今や世界の頂点に立っているといっても過言ではない日本のアニメ。1958年に東映がカラーで製作した日本初の長編アニメ「白蛇伝」をはじめ、さまざまな作品が存在する。その中で最も革新を感じたのは「ヤマト」と「機動戦士ガンダム」の時代だという。

 「74年はヤマト単独でしたが、79年は富野由悠季さんが『ガンダム』を作り、りんたろう監督が『劇場版銀河鉄道999』を作り、宮崎駿監督が『ルパン三世カリオストロの城』を作った。今名前を挙げた人は皆41年生まれです。作品は79年に一斉に狂い咲きのようになったのですが、いずれも後に与えた影響が大きい作品ばかりです」

 これには理由があるという。「41年生まれの人は22年たって社会に出るタイミングに当たるのが63年。63年は『鉄腕アトム』の開始年なんです。テレビアニメが広がった年(63年)に就職した人が、79年には38歳になって手がけました。『ヤマト』で演出を手がけた石黒昇さんも30代後半が一番いい仕事をすると認識していて『エヴァンゲリオン』の庵野秀明さんも同じことを言っている。庵野さんが『エヴァ』を手がけたのも35の時ですしね」

 アニメ史には革新的な出来事もあるが、同著で氷川さんはアニメの本質が空洞化していると危惧している。

 「アニメのキャラクターが売れるからアニメを作りましょうと考える人が多いようですが、逆です。『なぜキャラクターが売れるのか。なぜキャラクターを身近に置いとかなければいけないのか』ということを、誰も言っていないことに気がつきました」

 現在はグッズが売れるという点で、経済的に回っているものの「アニメ業界が先細りしていくのでは」と考える。

 「例えば映画を見ても、キャラクターと物語しか覚えていなくて、作品から得た感動を忘れてしまう。映画の中の奇跡の瞬間は記憶としてどこかにしまい込んじゃっている。その瞬間を思い出すようにキャラを商品化するのがキャラクタービジネスの本質です。しかし最近はキャラを売るためのアニメを作るということが多い。手段と目的が逆転していると思います」

 アニメは計算のもとに成り立っていると予想する。「工学技術的な計算のもとに製作しているんです。アニメって作るのに金がかかりますから。漫画や小説よりも桁を1つか2つ多い人に届けなければならない。そういう意味での大衆性やマスに対しては、感性だけではダメ。テクニカルなロジックがないと、はまらないんです。(『君の名は。』などの)新海誠さんは全部計算ですよね」

 アニメや特撮を研究する前は、富士通でエンジニアとしてデジタル電話の開発を担当していた。研究職をしたことでアニメが「工業製品」ということに気がついたという。

 「アニメはアートの世界ととらえられますが、基本的には工業製品なんです。次の工程に行くときに、作画だったら作画監督がチェックをするとか、演出がここで締めてチェックしますとか、細かく決まっている。90年代に工業製品の規格ができたのですが『まんまじゃん』みたいに思いました」

 黒電話がデジタル電話になり、携帯電話に進化した。アニメ製作も同様にアナログの手法からデジタルに進化している中、今後のアニメはAIが鍵になると考えている。「AIも取り込んで大衆の欲望を慰めたり、ちょっと物欲を喚起させたり、エスカレートさせたりするんじゃないですかね。AIも進化のスピードが速いですから。AIが未知数だからこそ、アニメにも役に立つというか、進化するのではないでしょうか」

 ◆氷川 竜介(ひかわ・りゅうすけ)1958年2月15日、兵庫県姫路市生まれ。65歳。東京工業大在学中からアニメ誌上で執筆を始め、卒業後に富士通に入社。黒電話の開発などを行う。2001年に文筆家として独立。文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。

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