◆東京六大学野球リーグ第1週第2日 慶大3-2法大(9日・神宮)
無我夢中で振り抜いた。両手の感触と三塁側応援席の大歓声が着弾点を教えてくれた。打球は神宮の青空に大きな弧を描き、バックスクリーン左に吸い込まれた。ヒーローは前日に神宮デビューしたばかりの村上真一朗外野手(4年)。リーグ戦初安打が代打逆転2ランになった。ダイヤモンドを一周すると、最高の仲間たちが笑顔で激しく出迎えてくれた。
「勝負所で行くと自分ではずっと思っていました。何があっても行ける準備はしていたので、強い気持ちでいきました」
出番は突然だった。9回だ。慶大が2点ビハインドから1点差に迫り、なおも1死二塁のチャンス。途中出場の水鳥遥貴(3年)がセーフティーバントを試みたが、ファウルに。ここで堀井哲也監督が動いた。異例となる1ストライクからの代打起用。指揮官は「真っすぐ一本を狙っていけ」と送り出した。その初球に逆転アーチが生まれた。堀井監督も「200点のバッティングだったと思います」とたたえた。
東京・板橋区にある私立男子校・城北の出身。高校通算18発をマークしたが、3年の夏も3回戦で敗退。「大学は集大成として、日本一を目指せるチームでやりたい」と慶大に照準を絞った。「とにかく慶大の野球部で野球がしたかった。慶大に行けるなら、何でもいいから入りたかった」と推薦入試で文学部に合格。日本史を専攻する傍ら、白球に命を懸けた。
「努力に勝る天才はなし」。その言葉を胸に刻み、試合に出られない時も一心不乱にバットを振り続けた。その姿を堀井監督は見ていた。大事な場面での起用に応え「勝負を決める一打を打ちたいと思って、ずっと頑張ってきた。最高の気持ちです」と笑顔がはじけた。
文学部では唯一のベンチ入り。「野球は今年で終わり。就職しようかなと考えています」とラストイヤーに完全燃焼を誓う。これで1勝1敗のタイに持ち込んだ。10日の法大戦第3ラウンドへ「強い相手なので、切り替えるところは切り替えて、全員野球で勝っていきたい」と村上。若き血をたぎらせ、突き進む。(加藤 弘士)