歌舞伎俳優・市川段治郎(のちに月乃助)として活躍し、2016年から劇団新派に移籍した喜多村緑郎(54)が愛知・御園座の「陽春花形歌舞伎」(22日千秋楽)で二枚目でありながら悪事を働く「色悪」の役柄を好演している。このほどスポーツ報知の取材に応じ、現在の心境を語った。
座頭の中村勘九郎(41)、七之助(39)とは何度も共演し、気心の知れた間柄だが、新派移籍後は初共演。「このような機会を頂き、感謝しかありません。感慨深いです」。勘九郎、七之助の父・中村勘三郎さん(12年死去、享年57)にも08年の「赤坂大歌舞伎」に抜てきされた縁があり「毎日のように天国の勘三郎さんを思い出して、ウルッとしながら舞台を勤めています」と思いを明かした。
昼の部では、七之助が早替わりで7役を演じる「お染の七役(おそめのななやく)」で鬼門の喜兵衛を演じる。質店から金をだまし取ろうとする役で、見得(みえ)を切ると「緑屋」の大向こう(掛け声)がかかる。「歌舞伎時代は『澤瀉屋』だったので、『緑屋』の大向こうは初めて。気持ちが高ぶります」。勘九郎が主演する夜の部「怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)」は磯貝浪江役で、昼夜いずれも主役を引き立てる重要な役だ。
約30年間、澤瀉屋で培った歌舞伎の経験を生かし、御園座で奮闘する緑郎は「役者にとって必要とされることが何よりうれしい。軸足は新派ですが、呼んでいただければ、どんな作品でも出ます。常に準備はしています」と頼もしい。勘九郎も「早替わりがある芝居は間(ま)を埋める、あうんの呼吸が大事。緑郎さんは経験が豊富」と信頼を寄せている。(有野 博幸)
〇…新派の俳優が歌舞伎で主要な役柄を演じるのは極めて異例。緑郎の歌舞伎出演は坂東玉三郎(72)が道筋をつけた。昨年6月、歌舞伎座で上演した「ふるあめりかに袖はぬらさじ」に新派から緑郎と河合雪之丞(52)を起用し、「歌舞伎と新派に垣根はない。これがいいきっかけになって、いつでも一緒にできるようになればいい」と語っていた。後輩思いで不遇な役者にも気を配る玉三郎の心意気が歌舞伎界を活性化させている。