声出し応援が4年ぶりに再開され、グラウンド同様に盛り上がりを見せた今春のセンバツ大会。アルプス席でも熱戦が展開され、多くのファンを元気にした。全出場校を現地で取材した高校野球ブラバン応援研究家の梅津有希子さんに、今大会のアルプス応援のポイントについて聞いた。(構成・加藤 弘士)
(1)手探りのスタート…徐々に増した一体感
4年ぶりに声出し応援が再開されましたが、応援を先導するアルプスの野球部の3年生たちは、2019年当時はまだ中学2年生でした。彼らにとって声出し応援は初めてなんです。経験が一度もない中で、手探りのスタートになる中、大会が進むごとに一体感が増していった印象です。
それまでは応援のやり方を先輩たちから教えてもらい、代々と受け継がれてきました。しかしコロナ禍で声出しの応援文化は一度、途切れてしまったんです。どう復活させるか。ここで各校が活用したのがYouTubeです。選手たちは過去の応援を見て練習したり、智弁和歌山は応援用動画を作って、それを生徒たちに見せて練習してきたそうです。
強豪校や常連校でも、初戦は恐る恐るやっていた印象があります。でも徐々にいつも通りの元気いっぱいの応援になりました。今回は生徒の皆さんも先生方もたいへんな苦労があったと思います。その分、やり遂げた達成感も大きかったのではないでしょうか。
(2)TikTok発元年
今回は履正社の吹奏楽部が野球部のリクエストに応えていて、その大半がTikTok発の曲だったんです。
アルプススタンドで掲げられた曲目ボードに「チュンチュン」と書いてあって。どんな曲かな思ったら、台湾プロ野球の人気チアリーダー・チュンチュンのテーマ曲としても有名で、彼女のダンス動画はYouTubeで大人気ですが、TikTokでも再生されまくっているんです。
TikTok発の意外なところでは、キャンディーズの「年下の男の子」が入っていました。「どうして?」と聞いたら「TikTokで人気なんです」と。リバイバルの「踊ってみた」「歌ってみた」で流行っていて、それを野球部の選手がリクエストしているという流れです。
これまでもTikTok発の曲を使った学校はあったんですが、いよいよ本格的にTikTok発が出てきたなという感じです。今年は「TikTok発の曲元年」と言えると思いますね。
(3)共通理解となった「チャンステーマ」
「チャンステーマ」という位置づけの曲を演奏する学校が増えたのも、今大会の特徴です。走者が二塁、三塁の得点圏で演奏されるのがチャンステーマですが、10年前ぐらいは設定のない学校もたくさんありました。
今では野球部員だけでなく、吹奏楽部の生徒たちも「チャンステーマは何?」と聞けば即答できるぐらい、共通の理解になってきたなと思います。
チャンスに元祖ともいえる「アゲアゲホイホイ」で盛り上げる報徳学園と、オリジナルのチャンステーマ「BIG WAVE」を奏でる山梨学院が決勝に進出したのも、今大会を象徴しているといえるでしょう。
結びになりますが、TikTok発など、何曲もの野球部からのリクエストに応えられるのは、吹奏楽部の演奏力があるからです。 吹奏楽部の「野球応援が好き」「選手たちの好きな曲で応援してあげたい」という気持ちがなければ、このような応援はできません。
グラウンド上で奮闘した選手と同じように、アルプスで頑張った控え選手のみなさんや吹奏楽部のみなさん、応援団やチアリーダーのみなさんにも、心からの拍手をお願いしたいと思います。