先崎学九段が明かす“盤外メシ” 棋士同士の飲みでルールは2つ それ以外は「みんな結構いいかげんですよ」

スポーツ報知
先崎学九段

 棋士の先崎学九段(52)の「将棋指しの腹のうち」(文春文庫、693円)では、東京・将棋会館の周辺にあるおいしいグルメとともに、盤外の棋士たちの意外な素顔が描かれている。先崎は「お酒を飲んで、愚痴を言ったりしながら生きているのは将棋指しも同じ。全部書くと将棋界追放になるので、書けるようなことだけちょっと書いてみようかなと」と話す。(瀬戸 花音)

 長い対局中のつかの間の休息。棋士が対局の合間に取る食事は近年、“将棋メシ”として注目を集めている。本書で描くのは、そんな将棋メシともまたひと味違う、勝負を抜きにした盤外メシだ。

 羽生善治九段と食べた千駄ケ谷「CHACOあめみや」の400グラムステーキ、佐藤康光九段と2人で30人の若者にごちそうした高級焼き肉、棋士の酒席での素顔…。「おそらく結構な棋士たちが読んでいて、苦笑いをしている棋士もおります」と先崎が言うように、盤と向き合っている姿からは想像できない姿もつづられている。「『棋士はお酒が好きなんですか』と聞かれることがあるんですが、お酒を飲んで、愚痴を言ったりしながら生きていているのは将棋指しも同じ。それを全部書くと発行禁止及び、将棋界追放になるので。書けるようなことだけちょっと書いてみようと思いました」

 棋士同士の飲みのルールは2つ。「相手の師匠と奥さんの悪口は言わないこと」「相手の将棋をおとしめることは言わないこと」。それ以外は割とルーズな面も多く、昔は負けた先輩が対局相手の後輩を誘ってそのまま飲みにいくこともあったという。その時の先輩の心境を聞くと「単に家に帰るよりビール飲んだ方がいいって、それだけですよ」と笑う。「今の『観(み)る将』(自分で指すよりも観戦が好きな将棋ファン)の方とかは、棋士のことを本当にすごいアスリートの固まりだっていうふうに見ているかもしれないんですが、みんな結構いいかげんなんですよ。今はずいぶん真面目な将棋界になったんですけど、昔の名残は今でもあって、お互い将棋しかやってない一つの世界に生きているもの同士っていうことで、結構なあなあでね」

 先崎は将棋を「娯楽産業」という。藤井聡太六冠の活躍などでファン層も増えている中、「将棋メシ」は娯楽という点で、今や一つの役割を担っている。「娯楽産業というのは世の中の方に楽しんでいただいて、笑っていただいて、顔が明るくなっていただいてなんぼ。(藤井)聡太くんが何かを食べて、それでタイトル戦を開催している地元の方の気分が明るくなって、皆さんのテンションが高くなっていただけるなら、将棋及び将棋指しが世の中の方に瞬間的にも幸せを与えているということなのかなと。それは素晴らしいことだと思います」

 先崎の執筆の原点にも同じような思いがある。「書いた物でも、皆さまのテンションが少しでも上げられたらっていう。週刊文春さんに連載していたんですけど、その時はやはりファンを増やしたい、特に少なかった女性のファンを将棋界の発展のために増やしたいっていうのが、最たる動機かもしれません。連載をしている時は将棋界を少しでもって気持ちが強かったですね。だけど、本書は特に書きたいことを書いてるっていう感じですけどね」

 12日に幕を閉じた藤井と羽生九段による王将戦七番勝負。令和の王者と平成のレジェンドの世紀の一戦は将棋をあまり知らない人々からも注目を集めていた。「元々、将棋は分け隔てなく誰でもできるし、誰でも勝てるもの。藤井さんはさまざまな立場の方に希望を与えているし、羽生さんが頑張っている姿も、同世代の仕事でも家庭でも大変な方々に希望を与えていると思います」

 本書の中で先崎一押しグルメを聞くと、羽生との思い出の味でもある「CHACOあめみや」のステーキを挙げた。「CHACOのステーキは私がこの世界に入った当時から同じ味です。サーロインとか油ギトギトのものが好き。今でも400グラムは食べますね。とにかく頭の中、肉肉肉肉肉ですね」。答えは、戦う男らしいメシであった。

 ◆先崎 学(せんざき・まなぶ)1970年6月22日、青森県生まれ。52歳。米長邦雄永世棋聖門下。81年、小学5年で奨励会入会。87年、四段に昇段し、プロに。91年、羽生を準決勝で破り第40回NHK杯優勝。棋戦優勝2回。A級在位2期。2014年九段に昇段。17年7月にうつ病を発症し、慶応大学病院に入院。1年間の闘病を経て18年6月、復帰。著書に「うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間」など。

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