歌手・タレントの島崎和歌子は、まさに円熟の時を迎えている。開始から32年、63回目を迎えるTBS系「オールスター感謝祭」(4月8日・後6時半)では初回から総合司会を務め、故郷・高知を舞台にしたNHK連続テレビ小説「らんまん」(4月3日スタート、月~土曜・前8時)では、日本で初めて女性参政権を主張した「民権ばあさん」を演じる。今月2日に50歳の誕生日を迎えた。アイドル歌手からキャリアを重ねた今「老いていく自分を見せるのも芸」と語る。(宮路 美穂)
豪快な笑い声、誰にも壁を作らない振る舞い。島崎の周りには、明るいオーラが常に漂う。まもなく本番を迎える「―感謝祭」で大人数をさばく極意を聞くと「年とっていくと、みんな同じ顔に見えますね。年配の方とか親とかが『若い子はみんな同じに見える』と言っていて、『いやいや』と思っていたら、40歳を超えた頃から顔と名前が一致しなくて。恐ろしいですよ。先輩が言っていたのはこういうことかって今、付箋で(名前や注意事項を)MC台に全部貼ってます」。飾らない笑顔がチャーミングだ。
1991年のスタートから総合司会を務める“皆勤賞”。当時は18歳だった。「いま考えると、『若さって怖いもんなしだな』って。初代の(島田)紳助さんも、割と伸び伸びやらせてくれてた方なので『生放送って時間通り終わるから、一発勝負で楽だな』みたいに思ってました。いろいろ分かった今のほうが怖い。悪夢見ますもん。機械が作動しないとか、名前が出てこないとか…」
現在は、出演者というよりもスタッフのような関わり方だ。事前の打ち合わせから必ず参加。ときにはゲキを飛ばすようなこともある。「生放送は本当に瞬発力なので。最近は、現場の若いスタッフよりも先に指示が分かっちゃう時もあって。逆に教えなきゃいけない立場になった。元気に声出していこうとか、お水やタオルを出すタイミングとか…。いま生放送のバラエティーも少ないじゃないですか。コロナの中でも対策をしながら、メタバースとか新しい企画も挑戦してきた。見ていてクイズに参加できたり、なんか物がもらえたり。視聴者の人に愛されて、一緒に楽しめるのはすごくいい番組だと思っています」
バラエティーアイドル、通称「バラドル」の第一人者。「そう、歌手なの。みんな忘れてるでしょ? たまに若い子とカラオケ行って、楽曲検索用のリモコンだと3曲しか出てこない。『俺、1曲も知りません』とか言われたり」と笑い飛ばすが、実際はデビュー直後にアイドル冬の時代に突入した苦労人。「歌番組もどんどん終わっていって、新人紹介のコーナーなんて出られなくて」。生きる道を探してバラエティーに進んだのではなく、そこしか道がなかったのだという。
「時代背景に乗っかっていったら、自然とそうなった。山瀬まみさん、井森美幸さん、松本明子さんが『バラドル』という道を作ってくれて、本当に感謝しています。森口博子さんは『ガンダム』シリーズのヒット曲があるから私たちとは違う(笑い)。歌が歌えなくても、クイズとかロケのリポーターとして呼んでもらえたのは大きかったですね」
この道を踏み出した最初は「わけが分からなかった」という。「なんでアイドルなのに水かけられたり、パイとか投げられるんだろうなって。でも嫌じゃなくて、先輩たちが楽しそうにやっていたので『そうか、こういうもんなんだ』って。何も知らないってすごくいいことですね。パイも真正面で受けないと汚く見えるとかも勉強しながらやっていた。10代のころは、何があってもいいように替えのパンツを自分で用意して持っていってました。いつ水をかけられたり、汚れたりするか分からないんで…」。バラエティーの洗礼も素直に受け止めていた。
バラエティーの現場はしばしば“戦場”とも呼ばれる。その中で共に戦った大人は厳しくも温かかった。「大竹まことさんの番組にアイドル時代に出させて頂いたとき、1着しかないペラペラの衣装を着ていたら大竹さんが『お前、なんだそのペラペラ。もっといいもの着させてもらえよ』って。普段、アイドルに厳しく当たったり川に落としたりしているのに…。優しい人だな、見てくれていたんだな、というのを覚えています」
アイドル水泳大会で日焼けした肌で映画の現場に向かった時には、スタジオのメイク担当から激怒されたこともあった。「洋服とか髪の毛のつながり(シーンの前後を違和感なくつなぐこと)とかはあるけど、肌の色にもつながりがあるんだって初めて気づいた。スタッフさん、昔はみんな怖かったからね。マネジャーにも怒ってました。『日焼けさせるんじゃないわよ!そういう環境にさせてあげなきゃダメでしょ』って。それ以来一年中、日焼けはNG。家にいるときであろうと、日焼け止めを絶対に塗っていますね」
そのときに舞い込んだ仕事に誠実に向き合い、実直にやってきたからこそ、今の島崎がある。「『ぽかぽか』とかもそうですけど、今こんなオバサンを呼んでくれてありがたいですよね。バラエティーで、芸人さんもたくさんいる中で、(起用側は)若い人いきたいじゃない? その中で番組に呼んでくださるっていうのは、これって本当にいい仕事、いいスタッフにめぐり合えてきたということ。財産だな、人とのご縁だなと思います」
たくさんの縁をつないでいく中で、朝ドラ「らんまん」への出演も決まった。島崎が演じる楠野喜江は、日本で初めて女性参政権を要求した「民権ばあさん」こと楠瀬喜多をモデルにしたキャラクター。高知ではよく知られた人物だ。
「ずっと高知の観光特使もやらせてもらってるので、そういうご縁もある。『民権ばあさん』という年もちょうどいい感じで、実在の人物の方を演じられるのは奇跡ですよね。彼女は『なんで私には権利がないの。納税してるんだから選挙権をくれ』と主張する。土佐の女子(おなご)じゃなあ、って感じでしたね。男女平等なんて世界的にもやっとじゃないですか。幕末から明治の時代に、よく言えたなあ。やっぱり高知の女っていうのは強いなって思います」
土佐の心を持ち続けた「はちきん」は、3月に50歳を迎えた。「いま、人生100年時代の折り返し。最近はどこ行っても自分が一番年上になることも多くて、これがもう初老か、重いなと思う」と話すが、老いていくことへの恐怖心はないという。
「40代に入ってきた頃から漠然と思っているんですけど、年を重ねて、年を取っていく姿を見せるのも芸なんだなって。この間まで更年期の番組をやっていたんですけど、今だからこそ関われた仕事。島崎和歌子って人も、若い頃から見てきたけど、この年になってそういうことに直面しているんだなって共感してもらえたらありがたいですよね」。一日一日の丁寧な積み重ねを、ありのままに見せることこそが島崎和歌子の美学だ。
◆島崎 和歌子(しまざき・わかこ)1973年3月2日、高知県生まれ。50歳。87年にロッテのCMオーディションに応募したことをきっかけに芸能界入りし、89年にフジテレビ系ドラマ「こまらせないで!」で女優デビュー。同年5月に「弱っちゃうんだ」で歌手デビュー。その後、数々のドラマやバラエティーにジャンルを問わず出演。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」、「ぽかぽか」(木曜レギュラー)に出演中。2005年から高知観光特使を務めている。