若手注目の歌舞伎俳優・中村種之助(30)の成長が目覚ましい。昨年までは立役(男役)中心だったが、今年に入って女形の大役が続く。一気に芸域を広げ、両方をこなす「兼ねる役者」への仲間入りを果たそうとしている。今月は東京・国立劇場の「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)―曲舞・奥殿―」(27日千秋楽)で、鬼次郎女房お京を丁寧に演じている。ちょっと話を聞いてみることにした。
女形は自主公演的なものはあるものの、本興行での経験はほとんどなかった。そんな中で多くに驚きを与えたのが1月の浅草歌舞伎。言葉の不自由な絵師・又平が苦悩する「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」では又平役の兄・中村歌昇(33)との夫婦役で、種之助は妻おとくを演じた。この役は夫婦愛の結晶が奇跡を起こすだけに奥さんの芝居も極めて重要。しかし、ずっと立役の人がたまに女形をやると、違和感を与えてしまうことが少なくない。
種之助は、その違和感のようなものが、ほとんど無かった。若手では比較的、達者と言われてきたが、1月に続いて今月のお京役も見て「兼ねる役者」の道を歩み始めたことを確信した。
「父(中村又五郎)が立役ということもあり、なかなか機会がありませんでした。でも小柄な僕としては、かなり以前から、女形をやりたいと思い続けていました」。本興行ではなかったものの、自主公演などで経験豊かな先輩から女形の芸を教わっていた。ひそかに腕を磨いていたということだ。立役に比べ、女形の人数は少ない。これから出演の機会も増えるだろう。
女形は「静」の状態で内面を伝えなければならないことが多い。「難しいです。これまでなら『女形の経験が少ないので』と言えたかもしれませんが、続けて大きな役をいただき、もう言い訳は許されません。胸を張って『兼ねる役者』と言えるようになりたい」。
2月に30歳になったばかり。4月は東京・明治座「壽祝桜四月大歌舞伎」で昼の部「義経千本桜 鳥居前」では逸見藤太を、夜の部「絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)」ではお亀と立役、女形の両方を演じる。チャンスを生かしてどう成長していくのか、しばらく目が離せない。(記者コラム)