立命大のスプリンターコンビ永石小雪と角良子、インハイ100メートル・ワンツーフィニッシュから進化を見せる

スポーツ報知
笑いが絶えない立命大のスプリンターコンビの角良子(左)と永石小雪

【特集・未来アスリート】

 2年前のインターハイ陸上女子100メートルで、ワンツーフィニッシュを決めた立命大女子陸上競技部のホープ、永石小雪、角良子(ともに19)が、飛躍を期す2年目を迎える。ライバルでも気心の知れた名コンビは、大学生活1年目の助走期間から進化を遂げるシーズンへ。お互いを高め合いながら日本のトップを見据える。

 「どちらかが勝って、1、2位になるのかなって…」。2人はそう確信していたという。世代最速ランナーを決める2021年7月、福井市での全国高校総合体育大会(インターハイ)決勝。U20日本陸上競技選手権大会を、大会記録に並ぶ11秒65で制していた永石(佐賀北)と、鳥取県大会で11秒66をマークし、高校生ながら日本陸上競技選手権大会で準決勝に進んだ角(倉吉東)とのV争いと見られたこのレース。角に先行されながら、一気に加速した永石が抜き去ってU20と同タイムで優勝し、角は0・08秒差の2位。予測通りワンツー決着した。

 あれから1年8か月。白熱の決勝戦を走り抜いた2人は、大学2シーズン目を前に、新たな出発点に立っていた。角は入学間もない昨年4月、日本学生陸上競技個人選手権で右ハムストリングを肉離れ。6月の日本陸上競技選手権大会で復調の兆しを見せながら、その後に右すねを骨折した。「本当に大事な時期にけがをして練習が積めず、1年間うまくいかなさすぎて…」と胸の内を打ち明けた。

 永石も思うように成績を伸ばせなかった。9月の日本学生陸上競技対校選手権大会(日本インカレ)では、自己ベストにほど遠い12秒00で準決勝敗退。シーズン後半は右足首ねんざも重なり、ぎりぎりの状態が続いた。「全(日本イン)カレで大学のレベルを見て、今の状態だとタイムも結果も残せないと、肌で実感した」と、前へ進めなかった1年間を振り返った。

 環境の変化が大きかったのかもしれない。実家を離れた独り暮らし。体を考えた食事作りも自分で行う。生活費や食事代を稼ぐアルバイトもある。そして授業と練習。「時間の使い方が難しくて。それと大学は走る量が多い。鳥取(県の冬)は雪で(走る)量が少ない代わりに、スピード練習が多かった。練習の質量が違うとすべて変わってくる」と、一時の戸惑いを口にした角。永石は立命大が指針とする選手の自主性を指摘し「学生主体の練習は他の大学にはない、本当にいい部分で魅力のひとつ。でも、高校と違って自分でメニューを考えて調整するのは、自分なりにしっかりやったつもりでも、慣れるまで本当に難しい」と、1年間の経験値を明かした。

 角は世代のトップランナーだ。米子市・美保中2年(2017年)の時、全日本中学校陸上競技選手権大会(全中陸上)で3位(12秒26)。そして同年から2年間、ジュニア五輪陸上大会を連覇し、18年の決勝では11秒92の数字をたたき出した。陸上と学業の両立を考えて、米子市内から2時間かかる倉吉東に進学。入学直前に負った左ひざ前十字じん帯断裂の大けがで2度の手術と地道なリハビリを重ね、スパイクを履けるまで丸1年もかかった苦難の日々を乗り越えた。「限界かなと思ったこともあったけど、陸上にけがは付きものだから」。昨年の相次ぐ故障も克服した揺るがない気持ちの強さがある。

 永石は母・智子さん(41)に勧められ、3歳からクラシックバレエを習っていた。唐津市・長松小2年になると「バレエに生かせる体力と体感を鍛えるため」同市内にある陸上のクラブチームに入部。バレエの先生になることを夢見ていた少女は、走ることが徐々に好きになって、迷った末に第一中進学後は陸上一本に決めた。それから年を追うごとに素質が開花し、佐賀北1年の時に日本陸上競技連盟のコーチを務める松永成旦監督の指導を仰ぎ、公認記録で自身初の11秒台(11秒93)をマーク。初の全国大会となる国体で決勝にまで進んだ。その後は安定して11秒台を記録。21年6月のU20日本選手権で優勝し、視野や未来も大きく広がった。

 154センチの角と、174センチの永石は、サイズが異なるように、走法がもちろん違う。小柄な角は歩幅を小さく足を速く蹴り出し、足の回転を速くする鋭い「ピッチ走法」。永石は長身を生かし、海外の10秒台の選手と比べても見劣りしない、日本人選手では突出した歩幅の大きさを誇る「ストライド走法」の大型スプリンターだ。

 角は「バネが足りなくて、足の裏で受ける反発が足りていなかった」と昨年の課題をあげ「中盤からの加速が持ち味なので、逆にスタートから中盤が改善点。最初から出られるように苦手な所を克服して、後半のスピードに持ち込んで、スタート、中盤、後半をうまくつなぎ合わせればいいかな」と復活へ意欲を見せる。永石も「私はストライドが見せ所。大学に入ってスタートは修正できて、うまく反応して出られるようになったけど、昨年は後半の伸びを欠いていたかな。あの伸びを再現したい」と再生へ自信をのぞかせた。

 滋賀・草津市内の同じマンションに住む。お互いの部屋を行き来し、何でも語り合う。「私はとにかく活発」と角。永石は「私は落ち着いている方」と笑う。アットホームな雰囲気が受け継がれるチームの中で、2人は特に相性がいい、なくてはならない存在だ。小学生当時の2人に面識は全くなかったが、不思議な縁だろう。角は陸上クラブの「T&F米子」、永石は「唐津陸上教室」の一員として、15年の「日清食品カップ全国小学生陸上競技交流大会」(神奈川・日産スタジアム)に同時に出場していたことを、つい先日知った。

 高校時代、早くから立命大進学を志望していた角。永石は「(立命大は)リレーも強い。(3年上の壱岐)あいこさん(東京五輪4×100メートルリレー日本代表補欠メンバー)の存在も大きかった」と、インターハイ後も熟考して立命大を選択した。角は「同じ年代で県やブロックで速い選手がいなかったので、(永石)小雪が(立命大で)一緒と知って新鮮! これで競い合えると思った」と大喜びしたという。

 春合宿を終えて、いよいよ新しいステージへのチャレンジが始まる。5月に関西学生陸上競技対校選手権大会(関西インカレ、ヤンマースタジアム長居)、6月に日本陸上競技選手権大会(同)、7月から8月にかけてワールドユニバーシティゲームズ(中国・成都)、9月には日本学生陸上競技対校選手権大会(熊谷スポーツ公園陸上競技場)など、ビッグな大会が控える。

 「冬の間の積み重ねを大事にしてきたので、出場する大会を増やしてタイムを上げたい。いい方向に向かっているので、関(西イン)カレで弾みをつけて、11秒66を更新したい」と巻き返しを誓う角。永石は冬に腰を痛めたが、今は回復し、状態のずれを積み直している。「あせらず、全(日本イン)カレでベストタイムを出せるように、そこを目指していこうと…。世界やユニバ(ワールドユニバーシティゲームズ)の意識は自分の中ではあるけど、それよりも、むしろ日本選手権や全(日本イン)カレでの上位入賞。そこに食い込めて初めて世界が見えてくると思う」と目標を掲げた。

 最高の仲間と最高の舞台へ。「全カレで優勝。リレーも優勝。総合優勝が目標です」と宣言した角。輝きを取り戻す栄光へ向かって、立命大のスプリンターコンビが再スタートを切る。

 ◆角 良子(すみ・りょうこ)鳥取県生まれ。19歳。米子市の崎津小4年の時、市民大会に出たのが陸上を始めたきっかけ。クラブチームの「T&F米子」に入り本格的に取り組み始めた。同市の美保中2、3年の時にジュニア五輪100メートル連覇。倉吉東では左ひざ前十字じん帯断裂の大けがを克服し、3年の時に日本選手権100メートルで高校生ながら準決勝に進出し6位敗退。インターハイでは惜しくも2位となった。昨年、立命大スポーツ健康科学部に進学。ベストタイムは100メートル11秒66、200メートル24秒66。好きな食べ物はギョーザや中華料理。「王将のギョーザは大好き」とか。好きな言葉は「かわいくいよう」。立命大女子陸上競技部には「花のように上品に」との信条があるようで、授業は必ず私服を着用。ラフなジャージー姿は厳禁だという。身長154センチ、体重48キロ。

 ◆永石 小雪(ながいし・こゆき)佐賀県生まれ。19歳。3歳からクラシックバレエを習い、唐津市の陸上クラブチームに入ったのは長松小2年の時。第一中からは陸上に専念し、3年の時にジュニア五輪に出場するなど頭角を現す。佐賀北では1年の時に国体で全国規模の大会で初の決勝進出。3年になるとU20日本選手権、インターハイ100メートルで優勝した。昨年、立命大スポーツ健康科学部に進学。ベストタイムは100メートル11秒65、200メートル24秒71。好きな食べ物は牛タンとキムチ鍋。自炊でもキムチ鍋はよく作るという。好きな言葉は「人間力」「人として応援される人」。モットーは「いつも笑顔で笑っていたい」で、周囲を和ませたいという。身長174センチ、体重60キロ。

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