村井満・元Jチェアマンのバドミントン改革「魚と組織は天日にさらすと日持ちが良くなる」…パリ五輪500日

スポーツ報知
自身の思いを色紙にしたためた日本バドミントン協会・村井満副会長

 2024年パリ五輪は14日で、開幕まで500日。21年東京大会後の五輪を来夏に控え、日本バドミントン協会に新しい風が吹く。昨年、元職員による横領・隠ぺいなどの不祥事が表面化した協会は今年1月、Jリーグの前チェアマン・村井満氏(63)が理事と副会長に就任した。組織の再建に当たる村井氏がこのほどスポーツ報知の取材に応じ、サラリーマン時代から大事にする「天日干し」の経営観、パリ五輪に向けた改革の大目標を語った。(取材・構成=宮下 京香、齋藤 成俊)

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 改革を担う村井氏には、これまでの経験を基にした信念がある。「魚と組織は天日にさらすと日持ちが良くなる」。1月に理事と副会長に就任した直後の会見で示した言葉を旗印に、日本バドミントン協会を隠ぺい体質から、“ガラス張り”の組織へと早期改善していく覚悟だ。

 「僕のビジネスマン人生はリクルートから始まり、1988年にリクルート事件【注1】が起こった。当時の竹下登内閣が総辞職した大きな事件。内容はさまざまな解釈があるが、この件も含め、あらゆる問題は、人が見ていない密室で起こる。逆に言えば、組織を天日にさらせば、人に言えないことはやらない。そうすることで組織はしなやかになる。日本協会も事象を開示して、より良くしていくアイデアや激励をいただくような存在だと思うんです」

 Jリーグのチェアマン就任直後の14年、J1浦和で人種差別問題【注2】が発生した。議論を重ねる手もあったが問題発生から5日後には会見を開き、無観客試合などの処分を発表した。また、動画配信サービス「DAZN」と契約するなどJリーグの人気回復にも尽力した。コロナ禍ではプロ野球とタッグを組み、報道陣に向けた会見は、1年で計71回に及んだ。

 「失礼な表現なんですが、記者は逃げると追ってくると思っています。だから、こちらから(情報を)発信するようになりました」

 小中学校でバスケットボール、高校時代はサッカー部でGKだった。その後、サッカー観戦にのめり込み「スポーツはいろいろなものを与えてくれる」と人生を豊かにしてくれることを実感した。今回、バドミントンは門外漢となるが、スポーツ界への「恩返し」の思いから、重責を引き受けた。

 2月にバドミントンのS/Jリーグの会場に足を運び、直接、選手と顔を合わせた。原点にはJリーグ時代に全51クラブ(当時、現在60クラブ)に出向いた「足を使う」精神がある。

 「百聞は一見にしかず。大学時代にはシルクロードを横断しようと中国に行ったり、京都から山口の萩、新潟から石川の輪島まで歩いたことがありました。新幹線を使うと移動のプロセスは記憶に残らない。だけど歩いて、見た景色は記憶に残る。これと同じで実際にクラブを訪ねると自分の中に、いろいろなものが染み込んでくることを実感したんです」

 日本協会は元職員が選手の賞金など約680万円を私的流用。公表も遅れ問題となった。村井氏は最優先事項に「組織変革」を掲げた。就任後、組織を構成する全55人の評議員と意見交換。その内容を踏まえ、今月上旬の議会で理事の役割を明確にし、関連団体との連携を強めるなど部分的な改革でなく「変革」と表し、組織が「生まれ変わる」ための第一歩を踏み出した。

 「誤解はあるかもしれないが、極悪非道な人が組織を私物化していたわけではない。良かれと思ってやったことでも、組織の構造として正されないと、機能不全を起こすケースだと思いました」

 「競技の普及」と「財政基盤の構築」も重要点に挙げた。コートに目を向ければ、パリ五輪が約1年後に迫る。21年東京五輪で銅メダル1つに終わった日本代表にとっては雪辱の舞台となる。

 「パリ五輪で金メダルを5つ取るような高みに挑戦していく。助成金が削減されたり、苦しい状況にはあるが、選手の環境改善はすぐに手を打ちたい。6月の改選までに、日本協会が組織の構造として、スポーツ団体でも先頭を走るぐらいの形を整えたよ、と伝えたい」

 【注1】戦後最大とも言われる汚職事件。1988年6月、リクルートコスモスの未公開株が、当時の川崎市助役に譲渡されていたことが発覚。その後、政界、労働省、文部省、NTTの4ルートで贈収賄に関与した12人が起訴され、全員に有罪判決が下された。当時の竹下登首相にも同社の株が譲渡されていたことが明らかになり、内閣は総辞職した。

 【注2】2014年3月8日の浦和―鳥栖戦で、埼玉スタジアム内の客席入り口に日の丸と「JAPANESE ONLY」という人種差別と受け取れる横断幕が掲げられた。Jリーグの村井チェアマン(当時)は5日後に緊急会見を開き、浦和にけん責とJ史上初となる無観客試合の処分を決めた。

 ◆スポーツ団体の主な再建請負人

 ▼バスケットボール 国内男子2リーグが存在し、運営が混乱していた日本協会は、国際連盟にガバナンスの欠如を問題視され、国際資格停止処分を受けた。15年1月、日本協会の組織改革を担うタスクフォースにはJリーグ創設に尽力し、初代チェアマンを務めた川淵三郎氏が抜てきされた。同協会会長にも就任し、16年秋開幕の男子プロリーグ「Bリーグ」を発足させた。

 ▼テコンドー 19年11月、強化方針を巡ってトップ選手と対立が続いた全日本協会はバスケットボール男子Bリーグ1部・千葉会長の島田慎二氏が、理事、同12月に副会長に就任。同協会の組織としての立て直しに尽力。

 ◆日本バドミントン協会の不祥事経過

 ▼22年3月 銭谷欽治専務理事が都内で会見し、元職員が18年度に選手の賞金や合宿時の負担金など約680万円を私的流用したと公表。

 ▼9月 協会が臨時理事会を開き、幹部の処分案などを議論。再発防止策を盛り込んだ最終報告書を、日本オリンピック委員会(JOC)などに提出することも確認。

 ▼10月 スポーツ庁、JOCなど5者による円卓会議で一件を不祥事事案として報告され、強化費の2割削減が決まる。

 ▼11月 不祥事を受けて、関根前会長と銭谷前専務理事が引責辞任。臨時理事会が開かれ、一部の処分を受けていない理事から、新会長に中村新一氏が就任。暫定的な新体制が動き出す。

 ▼23年1月 JOCが23年度も日本協会の強化交付金を2割削減すると決定。3か月ごとに書面で改善状況を報告させることも決まった。

 ◆村井 満(むらい・みつる)1959年8月2日、埼玉・川越市生まれ。63歳。県浦和高―早大法学部を卒業。83年、日本リクルートセンター(現リクルートHD)入社。2004年、リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)代表取締役社長就任。08年にJリーグの理事、14年に5代目チェアマンに就任。4期8年の任期を終え、22年3月に退任。同4月にONGAESHI・HDを設立した。

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