尾上菊之助(45)が、企画・演出・主演を務める新作歌舞伎「ファイナルファンタジー(FF)X」(4月12日まで、IHIステージアラウンド東京)が、こだわり抜かれた演出で注目を集めている。
FFシリーズ屈指の名作として知られる本作(2001年発売)は、異世界に迷い込んだ主人公ティーダが、少女ユウナとともに魔物に立ち向かう物語。歌舞伎の演目でゲーム作品を扱うのは史上初めて。菊之助がコロナ下に久しぶりにプレーし、自ら企画書を書き実現させた大作だ。
記者はFFをプレーした経験がなく、歌舞伎も絶賛勉強中。「イヤホンガイドなしで理解が追いつくだろうか」と少しの不安を抱きながら会場に向かった。客席には20代と見える男女や、原作のTシャツグッズを着た外国人の姿が多数あり、幅広い客層が集っていた。
幕が開くと、ティーダにふんした菊之助の姿に驚かされた。「歌舞伎でカラコン?」と後方の観客が珍しそうにつぶやく。確かに、瞳には透き通るような水色のカラーコンタクトがきらめいて美しい。原作のティーダに合わせ若々しい声色を再現し、語尾に「ッス!」を付ける口癖に、会場からくすりと笑いが漏れる。
360度回転する劇場ならではのシームレスな演出と、次々登場する豪華役者陣の芝居に魅(み)せられ世界観に引き込まれる。セリフも現代語を織り交ぜ、初心者にも易しい構成でありがたい。中でも、水の演出が印象深い。登場人物がしのぎを削る水中球技や、ティーダとユウナの水中キスシーンを、歌舞伎ならではのアイデアで再現。幻想的な名場面に躍動感が加わり、涙する観客も見られた。
原作のハイライトをつなぎ合わせるのではなく、愛とこだわりを持って構成された前後編約6時間。菊之助の初日会見での「名シーンのオンパレード」という言葉にもうなずける。題材も、親子の絆や人種差別と、いつの時代にも通じるメッセージがちりばめられており、後世に紡がれる名作となる可能性を十二分に感じた。(奥津 友希乃)