今年のオスカーの行方は? 日本時間13日発表の米アカデミー賞、作品賞ノミネート作紹介【下】

 米映画芸術科学アカデミーが主催する第95回アカデミー賞は、12日(日本時間13日)に発表・授賞式が米ロサンゼルスで行われる。「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞した昨年と異なり、残念ながら今年は日本からのノミネート作品は無いが、話題作、注目作がそろった作品賞ノミネートの10本を紹介する。(高柳 哲人)

 ◆逆転のトライアングル(公開中)

「逆転のトライアングル」Fredrik Wenzel(C)Plattform Produktion
「逆転のトライアングル」Fredrik Wenzel(C)Plattform Produktion

 <他のノミネート>監督賞、脚本賞

 <あらすじ>モデルのカールは、恋人でインフルエンサーのヤヤと共に、一癖も二癖もある乗客がそろった豪華客船クルーズの旅に招待された。ある夜、客船は嵐に巻き込まれ、夕食の場は地獄絵図に。さらに海賊の手りゅう弾により、客船は難破してしまう。カールら数人は無人島に流れ着くが、生き残るためのすべを知らない。生存者たちの生殺与奪を握ったのは、客船の清掃係だったアビゲイルだった―。

 <ひとこと>原題の「悲しみのトライアングル」よりも邦題の方がしっくりくる内容。オープニングのカールの登場シーンがその後の展開にどうつながってくるのか見た時には全く分からなかったが、後になってみると物語の内容を暗示しているところに「なるほど」とうならされた。

 中盤のいかにも子供が喜びそうな演出(記者は大人でも大好きです)や、ロシア(人)を皮肉った場面は好き嫌いが分かれるところか。また、物語の軸となっていくアビゲイルが登場するところは、やや唐突すぎて不自然ではないかと気になった。それにしてもヤヤ役のチャールビ・ディーン、昨年のカンヌ国際映画祭で本作がパルム・ドールを獲得して間もなく、病気のために22歳の若さで亡くなったのは残念すぎます。

 ◆西部戦線異状なし(Netflixで配信中)

「西部戦線異状なし」Netflixにて配信中
「西部戦線異状なし」Netflixにて配信中

 <他のノミネート>脚色賞、視覚効果賞、美術賞、撮影賞、音響賞、メーキャップ賞、作曲賞、国際長編映画賞

 <あらすじ>1930年の第3回アカデミー賞作品賞受賞作をドイツ語で再び映像化。友人らと意気揚々とドイツ帝国陸軍に入隊したパウルは、西部戦線の塹壕(ざんごう)戦に投入された。思い描いていた戦争とは全く異なる現実に加えて、初日の夜に友人を失い、打ちのめされるパウル。戦場では先輩兵士・カットとの友情も生まれるものの、その後も戦争は容赦なく命を奪っていった。一方、軍の上層部では休戦に向けた動きが始まる。

 <ひとこと>今年唯一の配信作品。下馬評には名前がそれほど挙がっていなかったが、国際長編映画賞のドイツ代表を含め9部門でノミネートされ、にわかに注目を集めた。

 気温だけではない、冷たい空気が流れていそうな戦場の雰囲気、「何かが起こる」感じを醸し出す楽曲を含めた音響効果は派手ではないが、緊張感をもたらすと同時に、どの場面でも「死」がすぐそばにあることを予感させる。また、悲惨な戦場と休戦工作を進める上層部のコントラストが、「戦争はいつも一般市民を苦しめる」ことを増幅。だからこそ過去の映画には存在した、戦場から故郷に引き揚げた時の「銃後の人々」との場面を見たかった気がした。

 ◆TAR/ター(5月12日公開)

「TAR/ター」(C) MMXXII FOCUS FEATURES LLC.
「TAR/ター」(C) MMXXII FOCUS FEATURES LLC.

 <他のノミネート>監督賞、脚本賞、主演女優賞(ケイト・ブランシェット)、撮影賞、編集賞

 <あらすじ>米5大オーケストラで指揮者を務めた後、ベルリン・フィルの首席指揮者に就任したリディアは作曲の才能も発揮し、多忙な毎日。そんな彼女を、コンサートマスターで恋人のシャロンは公私共に支えていた。ある時から、新曲の生みの苦しみに頭を抱えていたリディアは、幻聴なのか妙な音が聴こえるようになる。さらに、自身が指導した若手指揮者が自殺したことで、リディアの「この世の春」は徐々に狂っていく。

 <ひとこと>「ブルージャスミン」以来、9年ぶり2度目の受賞がかかる主演女優賞の有力候補ケイト・ブランシェットの圧倒的な演技に驚嘆させられる作品。特に、前半の学生たちを指導する場面での長回し、長ぜりふは見せ場十分となっている。

 その前半は「静」で進んで行く一方、歯車が狂い始めると物語は一気に動く。自分にとって余分なものをそぎ落として生きていたことで、それまでは全てがうまくいっていたはずのリディアが、知らぬ間にマイナスに働くようになる姿を見て、人間は一人では生きていけないことを改めて感じさせられる。同時に、それすらも乗り越えられる人間こそが、真の「天才」ということなのだろうかと思った。

 ◆トップガン マーヴェリック(Netflixなどで配信中)

「トップガン マーヴェリック」(C)2022 Paramount Pictures
「トップガン マーヴェリック」(C)2022 Paramount Pictures

 <他のノミネート>脚色賞、視覚効果賞、編集賞、音響賞、主題歌賞

 <あらすじ>1986年に世界中で大ヒットした作品の36年ぶり続編。パイロットとして輝かしい戦績を残しながら、人間関係が災いして左遷されていたマーヴェリックは、かつての盟友・アイスマンに請われ、「トップガン」の教官に就任する。彼の役割は、ある国家のウラン濃縮プラントの破壊作戦を成功させるべく、若きパイロットを育成すること。その中には、かつてのパートナー・グースの息子がいた。

 <ひとこと>日本でも興収100億円を突破し大ヒットしたことで、今さら説明もいらないだろう。記者の周囲の若い世代が「前作を全く知らないけれども面白かった」と話しているように、本作からでも十分楽しめるのはもちろん、前作のファンにとってはオープニングの”あの曲”が聴こえて来た時点で感涙ものだ。

 教官となったマーヴェリックが、後輩たちの訓練で使用する戦闘機はスーパーホーネット(F/A―18E/F)。初見時には「『トップガン』なのにトムキャット(F―14)じゃないのかよ…」と突っ込みを入れたのだが、既に見た人はご存じの通り。「続編はつまらない」というシリーズも多い中で、しっかり「かゆいところに手が届く」作品となっている。

 ◆フェイブルマンズ(公開中)

「フェイブルマンズ」(C)Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
「フェイブルマンズ」(C)Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

 <他のノミネート>監督賞、脚本賞、主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ)、助演男優賞(ジャド・ハーシュ)、美術賞、作曲賞

 <あらすじ>暗闇を怖がっていたサミーは、両親に連れられて行った映画館で「地上最大のショウ」を見て映画のとりこに。間もなくして母に与えられた8ミリカメラを使い、”作品”を撮り始める。青年に成長してからも映画への情熱を持ち続けたサミーだったが、父は「しょせんは趣味」と一笑に付す。そんな中、父に頼まれて家族で行ったキャンプの映像の編集をしていたサミーは、ある事実を発見してしまう。

 <ひとこと>予告にある「スピルバーグの自伝的作品」の文字から、「映画作りにあこがれた少年が、様々な壁にぶち当たりながらも最後には夢をかなえる物語」だと思って見ると、「あれ?」と首をかしげる人も多いかもしれない。大筋で言えば間違っていないものの、様々な別の要素が含まれている。

 家族の関係だけであればいいのだが、恋愛問題、さらにはユダヤ人差別の問題が入っていることで物語は複雑に。見終わった後にスカッとする作品とは言えない。ただ、第66回アカデミー賞で作品賞など7部門を受賞した「シンドラーのリスト」からも分かるように、スピルバーグ監督にとって、ユダヤ系であることは重要なアイデンティティー。見る前にそれを知ってから映画館に足を運んだ方がいいだろう。

「逆転のトライアングル」Fredrik Wenzel(C)Plattform Produktion
「西部戦線異状なし」Netflixにて配信中
「TAR/ター」(C) MMXXII FOCUS FEATURES LLC.
「トップガン マーヴェリック」(C)2022 Paramount Pictures
「フェイブルマンズ」(C)Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
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