2冠逃したオカダ・カズチカがつぶやいた「悔しい」の意味…新日旗揚げの地で最強の男が感じた欠乏感とは

IWGPタッグ王座奪取こそならなかったものの2020人の観客を沸かせたオカダ・カズチカ(左)と棚橋弘至の「ドリームタッグ」(カメラ・佐々木 清勝)
IWGPタッグ王座奪取こそならなかったものの2020人の観客を沸かせたオカダ・カズチカ(左)と棚橋弘至の「ドリームタッグ」(カメラ・佐々木 清勝)
7日のアントニオ猪木さんのお別れの会で「1、2、3、ダァー!」の雄叫びをあげたオカダ・カズチカ(左)と孫の尚登さん
7日のアントニオ猪木さんのお別れの会で「1、2、3、ダァー!」の雄叫びをあげたオカダ・カズチカ(左)と孫の尚登さん

 26年ぶりのIWGPシングル、タッグ同時保持の2冠達成こそならなかった。それでも、51年目を迎えた日本最大、最強のプロレス団体の中心に立つのは、この男しかいない。心の底からそう感じた敗北後の言葉だった。

 6日、東京・大田区総合体育館で行われた新日本プロレス「旗揚げ記念日」大会。昨年10月1日に亡くなったアントニオ猪木さん(享年79)が創設した老舗団体が大田区体育館(当時)で旗揚げ戦を開催したのが1972年3月6日のこと。

 それから51年。IWGP世界ヘビー級王者・オカダ・カズチカ(35)が、この日のメインイベントのIWGPタッグ王座戦で新日のエース・棚橋弘至(46)と「ドリームタッグ」を結成。王者の「毘沙門」後藤洋央紀(43)、YOSHI―HASHI(40)組に挑んだ。

 ゴング前から額を付き合わせて闘志をあらわにしたオカダとYOSHI―HASHI。序盤から息の合った攻撃を見せる毘沙門に苦しめられたドリームタッグだったが、個々の力は1枚上。オカダがマネークリップで後藤を捕獲すると、棚橋もスリングブレイドで追い打ち。さらにマネークリップで後藤を“落とす”寸前に追い込んだオカダだったが、YOSHI―HASHIが救出した。

 終盤には、対角線のコーナーに上がったオカダのダイビングエルボー、棚橋のハイフライフローで勝負を決めようとしたが、これはYOSHI―HASHIがひざを立てて迎撃。棚橋は毘沙門の激烈一閃、消灯の必殺フルコースを食らい、グロッギー状態に。オカダもGYRを食らい、分断されると、最後は棚橋が毘沙門の必殺の合体技・奈落で3カウントを奪われた。

 汗まみれでバックステージに引き上げてきたオカダはガックリとひざをつくと「本当、強かった。シングルマッチとは違う強さというのを感じさせていただきました」と完敗を認めた上で「でも、今回、タッグの楽しさも知ったので、棚橋さんと組んで、どんどん上を目指していきたい」ときっぱりと言い切った。

 「ドリームタッグと言っていて負けたら、ドリームじゃないんで。皆さんに夢を届けるのがドリームタッグと思う」と反省すると、「でも、シングルじゃ、こうは行かないから!」と目をギラリと光らせた。

 さらに「今日は旗揚げ記念日でしたけど、この51周年イヤーもしっかりと新日本プロレスっていうのを見せていきたいなと思います」と言い切った後に新日にカネの雨を降らせる「レインメーカー」の口から、責任感あふれる言葉が飛び出した。

 「こんな大事なアニバーサリーの日に超満員にもなってないし、やっぱり、客席が寂しい…」と真剣な表情でポツリ。「僕たちは闘うことをしっかりして、また、新日本プロレス一丸となって、もっと、もっと、プロレスが盛り上がることを新日本プロレス全体で考えていって、選手だけじゃなく、会社も考えていって。これだけ歓声があるわけですから、しっかりと盛り上がって、新日本プロレスの凄さ、素晴らしさっていうのを、この51周年から見せていきたいなと思います」と熱く宣言した後だった。

 「悔しい」―。

 去り際にオカダは確かに、こうつぶやいた。

 その悔しさは、51年の歴史を誇る新日でヘビー級のシングルとタッグ王座を同時に保持した2冠王者は過去に長州力、藤波辰爾、橋本真也、佐々木健介の4人だけで97年8月から10月にかけて保持した佐々木が最後。四半世紀以上存在しなかった2冠に挑んだものの達成ならなかったことに向けたものか。

 それとも、4000人超のフルキャパを誇る大田区総合体育館に2020人の観客しか呼べなかったことか。

 ずばり、私は後者と見る。なぜなら、この男は常に観客数にこだわってきたから。

 東京・後楽園ホールでの大会でも自身の出番前にカーテンの陰から観客の表情を、試合を楽しんでいるかを、じっと観察している姿を何度も見てきた。

 昨年1月5日の東京ドーム大会で最強外国人・ウィル・オスプレイ(29)を下してIWGP世界ヘビーベルト初防衛を果たした際も東京ドーム史上最低となった6379人の観客を前に「俺はやっぱり声援がある中でプロレスがしたい。もう無観客に戻りたくないですし、しっかりと、みんなの前で闘っていきます」と涙をぬぐいながら叫んだ。

 メキシコでレスラー修業をしていた10代の頃、文房具店の店先にマットを敷いて、数人の観客の前で闘った経験も持つ男は誰よりも観客数に敏感だ。17年8月に単独インタビューした際も「一生懸命、命がけで闘っても地球上で10人しか見てなかったら、たまらないじゃないですか」と真剣そのものの表情で話していたことを覚えている。

 だからこそ、猪木さんが亡くなって初めて迎えた旗揚げ記念日のメモリアルな大会を満員にできなかったことに悔しさを覚えたのだと、私は見る。

 そして一夜明けた7日。東京・両国国技館で行われた猪木さんのお別れの会で式の最後に猪木さんの孫・尚登さんと登場し、猪木さんの代名詞だった「1、2、3、ダァー!」を絶叫したのは、オカダだった。

 天高く突き上げたその右拳で、オカダは天国の猪木さんに満員の会場を取り戻すことを誓った。私のこの想像は決して間違ってはいないと思う。それこそがオカダ・カズチカという男だから―。(記者コラム・中村 健吾)

IWGPタッグ王座奪取こそならなかったものの2020人の観客を沸かせたオカダ・カズチカ(左)と棚橋弘至の「ドリームタッグ」(カメラ・佐々木 清勝)
7日のアントニオ猪木さんのお別れの会で「1、2、3、ダァー!」の雄叫びをあげたオカダ・カズチカ(左)と孫の尚登さん
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