50歳を超えた筆者は今、けっこう運動するようになった。約30年前は山岳部に所属し、格闘技ファンという平凡な学生。まだまだ人生の積み残しがあると感じ始め、年に1、2回出場するトレイルラン(山岳レース)に備えて走り、休みの日にはブラジリアン柔術などの道場に通っている。
トレランや道場で様々な人で出会う中で驚くのは、自分よりも年上でもあり得ないほど強い人がいくらでもいるということだ。昨年出場した青梅高水国際トレイルラン(30キロ)では、完走はしたものの、私よりも上位に無数の「50代以上」がいた。先日は道場で、スキンヘッドの還暦の猛者に悲鳴が出るほど絞め上げられて「まだまだひよっこやのう」と笑って頂いたばかりだ。
50歳というのは、意外と若いのではないか。そんなことを考えている中で先日、ソチ五輪銀メダリストでスキージャンプ界のレジェンド、葛西紀明(50)=土屋ホーム=を取材する機会があった。3月3日から5日まで札幌で開催された宮様スキー国際大会。初めてのジャンプ取材だ。
3日のノーマルヒルで葛西はまったく振るわず、24位。ジャンプの着地も安定していないように見えた。このところ低迷が続いているし、正直なところ、やはり衰えはあるのだろうかと感じた。
4日、翌日のラージヒルへ向けての公式練習に行くと、取材に来ている記者は私一人だけだった。おまけに吹雪のため、練習は中止に。がっかりしたが、引き揚げる本人を呼び止めると、足を止めて応じてくれた。「ちょっとばらついてますね。良かったり、悪かったりで」などとテイクオフまでの好感触がなかなかつかめないことを話してくれた。他に記者がいなかったのでエールを送るつもりで「私も同世代ですよ」と言うと、パッと顔を輝かせ「表彰台に立ちたいです!」と笑顔を見せた。
そして5日のラージヒル。葛西は1回目127・5メートル、2回目126メートルで8位だった。風を味方につけられず、入賞は逃したが、トップレベルで戦えることは示せた。「6位だった1本目は『もらった!』と思ったけど、急に落ちて行った。ジャンプ自体は悪くなかったけど、風がちょっと足りなかったかな」。
話を聞いていても、出て来る反省点は「テイクオフまでの目線をどこに置くか」などの細やかな技術面のことばかりだった。体力や気力の衰えはまったく感じさせられなかった。
スキージャンプは持久力やスタミナよりも、テクニカルな面が重視される競技のはずだ。葛西は、まだこれから進化できると思う。26年のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪で最年長金メダルを目指すという目標は、口先だけのものではないと確信している。(地方部専門委員・甲斐 毅彦)