内村航平さん 羽生結弦さんと重なる「なんか、美しいな」 「notte stellata」直前インタビュー3

美についての思いを語った内村航平さん
美についての思いを語った内村航平さん
20年2月、四大陸選手権エキシビションでイナバウアーを披露する羽生結弦さん
20年2月、四大陸選手権エキシビションでイナバウアーを披露する羽生結弦さん

 プロスケーターの羽生結弦さん(28)が座長を務めるフィギュアスケートのアイスショー「notte stellata」は、10日から12日までの3日間、宮城・セキスイハイムスーパーアリーナで開催される。スペシャルゲストとして出演する体操男子五輪連覇の内村航平さん(34)の単独インタビューは最終回。テーマは「美の追求」。(取材・構成=高木 恵、小林 玲花)

 ―内村さんのブレトシュナイダー、羽生さんの4回転アクセル、2人には挑み続けた技がある。勝ち負けを超えたところに技の追求があるのか。3度目や4度目の五輪だと、そういう域に達するものなのか?

 「あのお…面白くなくなっちゃうんですよね。常に面白いと思うことをやりたいタイプなんですよ、僕も羽生くんも。そのうえで勝つことが、よりすごいだろうっていう。自分にしかできない勝ち方だと思うので。多分お互い、何千回、何億回と理想まで行っている。でもさらにまた出てくるんですよ、その上の理想が。練習でもそうですし、試合でもそう。その繰り返しは何億回もやっている作業。多分同じ感覚だと思いますけどね。相手がいるわけでもないし。自己満足の世界なんですけど。人が見ていいと思うことを、自分がいいとは思わないというか。『いや、もういいでしょそれ』みたいに思うはずなんですけど。自分ではまだ満足していないっていう」

 ―ある時期から優勝しても「おめでとう」と言われなくなったと。

 「だから勝ったことに対して何かを言われるより、『演技のあそこが良かった』って言われた方がうれしいっちゃあ、うれしかった。自分がこだわっているところが伝わったなっていう。勝って『おめでとう』って言われないことが当たり前になっちゃって。まあ言われないよな、みたいな。何回も何回も勝っていたら。だってもう、試合の出発前から言われてましたもん。『どうせ勝つんでしょ、いってらっしゃ~い』みたいな」

 ―そうなると、ますますターゲットは自分の理想に?

 「そうですね。自分の理想ですね。結果とかより演技の出来、ですね。白井健三に言われてショックだったことがあって。2014年の世界選手権で、僕、1種目めの床からがすごい良かったんですよ。床、あん馬、つり輪、跳馬って。『3種目めぐらいで航平さんが勝つの分かっていたので、帰ろうかなって思いました』って。いや、見ろよ!って(笑い)。勝って、最後おめでとうって言ってくれよって(笑い)。僕の場合、あん馬が成功すれば勝つとみられていた。多分みんなそう思うんですけど、本人はそうじゃないんですよ。本当に最後まで何があるか分からないっていう気持ちでやっているので。でも周りにはそう思われていたんだなっていう。やっぱやっている本人の必死さなんて周りには伝わらないなって(笑い)」

 ―内村さんと羽生さんに共通する「美しさ」。「美」へのこだわりについて。

 「美しいって感じるのは人それぞれですけど。でも体操を分かる人だけでなく分からない人にも『なんか、美しいな』って思われることってすごく大事だと思っていて。自分にしか出せない魅力だと思うんですよ。ちゃんとした基本の技術がないと、そこは出せない。競技を見ているっていう感覚じゃなくさせるのが本物だと思うんです。例えば、技が描く放物線とかも考えたりするんですよ。(自分でやっていて)残像とかでわかるじゃないですか。放物線がこう、なんとなく描かれたなみたいな。鉄棒の最後の着地するところも、前に出るより、ちょっと斜め上にフワって出て降りた方がきれいな放物線なので。そういうところも心がけたり」

 ―加点にはならないが…。

 「ならないです。なんにも。点数にも反映されないし、技術的にもそこは重視しないので。羽生くんもジャンプの放物線が、めちゃくちゃきれいなんですよ。跳び出しから着氷までの山が、すごくバランスがいい。すごくきれいに徐々に上がっていって、緩やかに落ちていくっていう。距離もある。ここまで考えている人はあまりいないかも」

 ―2人の演技は、競技に詳しくない人が見ても違いが分かると耳にする。

 「そうですね、そこにこだわりを持つか持たないかだと思うんですよね。なんで美しいかっていうのを言語化するのって難しいじゃないですか。その『なんか』っていうふんわりしたのがすごい大事なのかなって。ちゃんと説明できたら、美しさって、美しさじゃなくなっちゃう。説明できないけど、なんか…っていうのがいいのかなあっていう。緩急だったり、メリハリだったり。空中でフワッとするっていうところとか。なんかそういうところに多分、羽生くんはこだわってると思うんですよね。普通の人がただ滑るところも何か工夫しているはずなんですよ」

 ―ところでスケートをしたことは?

 「この前、初めて行きました。寒っと思って(笑い)。せっかくの機会なんで、ちょっと滑ってみたくて。どうなるかと思ってやってみたら、開始5分で滑れちゃって。あれ? 意外といけるかもなって(笑い)」

 ―ショーに向けて、今はどのように体作りを?

 「今は…維持ですね。今も一日2時間以上は絶対に練習をするようにしていて。3日間あるので、やる技を変えたいんですよ。いろんな技のレパートリーは持っているので」

 ―いよいよ始まる。

 「とにかく楽しみたい。あとは見てもらって、どういう反応をしてもらえるか。演技自体は現役の頃から最高のものは見せてきているし、同じように美しくお互いやるはずなので。見ている人たちがどう感じて、どう思ってくれるか。僕は必死にやります。羽生くんのショーなので。迷惑かけたくないっていう気持ちが、けっこう強いです(笑い)」=終わり=

 ◆内村 航平(うちむら・こうへい)1989年1月3日、北九州市生まれ。34歳。両親が長崎・諫早市で設立した体操クラブで3歳から競技を始め、夏季五輪の個人総合は2008年北京銀、12年ロンドン、16年リオで連覇。リオでは団体も優勝。五輪は種目別を含め通算7個のメダル。世界選手権は09年ロンドンから15年グラスゴーまで個人総合6連覇など10個の金含む21個のメダル獲得。162センチ。

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