内村航平さん「羽生結弦くんとは似たもの同士」 「notte stellata」直前インタビュー1

内村航平さん
内村航平さん

 プロスケーターの羽生結弦さん(28)が座長を務めるフィギュアスケートのアイスショー「notte stellata」は10日から3日間、宮城・セキスイハイムスーパーアリーナで開催される。11日で東日本大震災発生から12年を迎える被災地でのショーには、体操男子五輪連覇の内村航平さん(34)がスペシャルゲストとして出演。スポーツ報知では、羽生さんと初共演する体操界のキングの単独インタビューを全3回で連載。初回のテーマは「同じ価値観」。(取材・構成=高木 恵、小林 玲花)

 ―「notte stellata」にスペシャルゲストとして出演する。

 「こんな機会はめったにないなと。僕は以前から、いずれ羽生くんと一緒に何かをやりたいと思っていたので。フィギュアは超人気スポーツで、羽生くんが先頭に立ってやっていて。体操もあやかって、人気が上がっていけばいいなと。今後、僕も体操のイベントをやっていきたいと思っていて。体操は引退したら人前で演技をする機会がなくなってしまう。6種目やるのは難しい、種目別でも代表入りは難しい、もうチャンスないな、やめて教室の先生になろうかなっていうのは、ちょっともったいない気がして。まだ体が動くうちはやってほしいというか。白井健三(日体大体操競技部男子コーチ)とか、まだ動けているし。他の体操出身者がフィギュアスケーターと一緒にやっていくっていうのも、ありかなって。そういう可能性を広げてくれる、いい機会になればと思います」

 ―昨年12月に北九州で「体操展」【注1】を開催。初の試みの手応えは?

 「現役中だと、それをやるためのパワー、エネルギーを競技に集中させたいというところがあって。今そこが全くない分、競技を広めていきたいとか、自分がやってきたことを少しでも知ってもらいたいという気持ちの方が大きくて。そこに全部を注げるというか。いいものができたかなって、手応えはすごくありました。今後も続けたいです」

 ―内村さんは東日本大震災の被災地を支援する「復興応援大使」を務めたことも。「3・11」について。

 「日本人なら忘れちゃいけない。僕は社会人に入るタイミングで埼玉にいて、震度6弱だった。ドアがすごい波打っていて、あんなに激しい地震は初めてで。東北の方たちは、もっと大変な被害を受けている。復興支援というより、子どもたちに夢を届け続けないといけないという思いでいます。そういった意味では、こういう活動は今後もやり続けないといけないのかなって。震災を知らない子どもたちも出てくる。こういう大変なことがあったということは、語り継いでいかないといけないという気がします」

 ―体操とフィギュアスケートの五輪金メダリストが一緒に演目を演じる。どんな化学反応を起こせそうか。

 「お互い採点競技で、芸術性や美しさ、魅せるという部分にこだわってやってきている2人なので。フィギュアの技と体操の技を同時に、というのは誰も見たことがない。やっている自分たちも、どういう感じになるのか分からないので、楽しみつつやりたいです」

 ―同じプロとして、羽生さんの挑戦をどう見ている。転向から7か月で東京ドーム単独公演もあった。

 「ありえないです(笑い)。ありえないっていうか、普通じゃできない。僕もいずれは東京ドームでやってみたいという思いがあったんですけど、そんな早くできるの?って(笑い)。羽生結弦だから成立するんだろうし、ましてや1人でやるっていうのがすごい」

 ―内村さんから見た羽生さんの美しさとは?

 「特にジャンプ。ひねりのジャンプですね。無駄が一切ないです。フィギュアの技術的な話は分からないんですけど、分からなくても無駄がないっていうのは見て分かります。4回転アクセルを結構、見ていたんですよ。腕と片足を上に振るっていうところがあるんですけど、あんなに人って同時に動かせるんだっていう。手と足がちゃんと、同じように動くんですよね」

 ―それは難しいこと?

 「めちゃくちゃ難しいです。多少はズレるんですけど、全く同じスピード、同じ角度で動く。相当、基本がしっかりしていないとできない。難しいことをやっても崩れなかったところが美しさにもつながるし、正しい技術で難しいことをやるっていうところが、よどみない技につながる。体操と同じですね、そこは」

羽生結弦さん
羽生結弦さん

 ―2人に共通する正しい技術。ぶれることなく、こだわって突き詰めてきた?

 「逆ですね。そこをこだわって突き詰めるというより、突き詰めた結果、そこが最短だって気づくんですよ。結局、基本が一番大事というところに全て行き着く。自己流でやったとしても、それ以上の発展がない。ってなると、基本の技術を誰よりも高めておかないと、難しいことはできないっていうところにたどり着くので。体操の技術って、答えがないんですよ。フィギュアもそうだと思うんですけど。ジャンプの仕方も、見ていて人それぞれだと思うし。羽生くんはよどみないというか、無駄が全然ないように見えるのは、基本がしっかりしているからだろうなって思います。どのスポーツも基本ができていないと、最終的に戻る場所がない。全部自己流でやっていると、技がうまくいかなくなった時に、どこに戻っていいか分からなくなって、その技ができなくなる」

 ―羽生さんのプロ転向会見の後、「『引退』じゃないんだろうなと分かっていた。僕と羽生くんとは似たもの同士」と言った。どこが似たもの同士だと感じる?

 「基本的に、クソ馬鹿野郎なんで、お互い(笑い)」

 ―内村さんのSNSのプロフィルは「体操クソ馬鹿野郎」。それは体操、スケートへの取り組みが?

 「はい。それだけをやることがおもしろい、生きがいだと感じている。やめて新しいことを何かするというのは選択肢としてないです。僕もいまだに体は動かしているし、羽生くんの場合は多分もうちょっとガチでやっていると思うんですけど。僕もできればそこまでやりたいんですけど、年齢的に僕の方が上ですし、体のボロボロ加減も多分、僕の方がボロボロだと思うので。ああやってできるのは、すごくうらやましい。好きなことをあれだけ突き詰められる人もなかなかいないだろうし。『引退してよくそんなにできるね』みたいなことをよく言われるんですけど『だって、もともと好きで始めたんでしょ?』って僕、言いたくなっちゃうんですよ。やり続けないと見えてこない領域もある。羽生くんも4回転アクセルをまだまだ突き詰めたいと思っているだろうし、もっと難しいことも考えているかもしれない。誰もが行き着けないところに行くんだろうな」

 【注1】昨年12月30日に北九州市立総合体育館で内村さんの主催イベント「体操展~動く芸術~」を開催。16年リオ五輪男子団体金の白井健三さんや、21年東京五輪の女子で種目別床運動銅メダリストの村上茉愛さんら豪華メンバーが集結した。

 ◆内村 航平(うちむら・こうへい)1989年1月3日、福岡・北九州市生まれ。34歳。両親が長崎・諫早市で設立した体操クラブで3歳から競技を始め、夏季五輪での個人総合は2008年北京銀、12年ロンドン、16年リオで連覇。リオでは団体も優勝。五輪は種目別を含め通算7個のメダルを獲得。世界選手権は09年ロンドンから15年グラスゴーまで個人総合6連覇など10個の金含む21個のメダル獲得。162センチ。

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